宮沢賢治「グスコーブドリの伝記」が再びアニメ映画化!キャラクター原案は漫画家のますむらひろし
宮沢賢治の童話を原作にしたアニメーション映画『グスコーブドリの伝記』が来年夏に全国公開されることが明らかになった。1920年代の冷害に見舞われた東北の森を舞台にした原作は今回で2度目のアニメ映画化となるが、今回の作品では東日本大震災に襲われた現在の日本へのメッセージを込めた作品になるという。監督を務めるのは、『銀河鉄道の夜』『あらしのよるに』の杉井ギサブロー。キャラクター原案は漫画家のますむらひろしが務めており、解禁されたビジュアルではますむらのマンガ版に従い、キャラクターがネコになっていることが確認できる。
宮沢賢治の原作は、1920年代の東北の森を舞台に、イーハトーブ森の木こりの息子として温かい家族に囲まれて成長しながらも冷害で家族を亡くしてしまった青年グスコーブドリが厳しい自然と向き合う姿を描いた作品。岩手の農村に暮らしていた宮沢賢治は、昭和三陸地震を含む大きな地震や大規模な冷害をそのわずか37年の生涯で何度も経験している。それでいながら作品中に登場する架空の理想郷に「岩手」をエスペラント語風にしたイーハトーブと名付けるなど、晩年に執筆された原作は宮沢賢治の東北への思いが感じられる作品となっている。
この原作は、宮沢賢治没後60年となる1993年にもアニメ映画として製作されており、今回はそれに続く2度目のアニメ映画化となる。過去には「銀河鉄道の夜」のアニメ映画化も手掛けている杉井監督は「宮沢賢治という作家の作品はいつの時代にも古びることなく、その時代への問題提起としての役割を果たしています。この『グスコーブドリの伝記』という賢治晩年の作品もまた、わたしたちの現在という時代が直面している環境問題とも、ある種の重なりを感じるのです。そういう意味においても賢治の作品は、その時代その時代の人々にどう読み取るかを託しているともいえそうです」と現在の状況を踏まえた作品になると明かしている。
だからといって、テーマを前面に押し出すわけではなく、あくまで本作はエンターテインメントとして楽しめる作品であることも杉井監督は強調。「このたび、この作品をアニメーション映画化するということで、わたしがその読み取り方の一端を担うとするなら、今の時代の物語世界として原話をスケールアップしたかたちで演出したいと思っている。そして賢治世界の幻想性をアニメーションの映像美として描くことで、賢治からのいまの時代へと向けたメッセージとして多くの人に伝えられるエンターテイメント作品として仕上げたいと思う」というコメントからも、本作へ懸ける意気込みが感じられる。
キャラクター原案を務めるのは、杉井監督と『銀河鉄道の夜』でもタッグを組んだ漫画家のますむらひろし。宮沢賢治作品の漫画化を手掛けていることでも知られているが、その特徴は何よりも登場キャラクターがネコとして描かれていること。それは本作でも例外ではなく、今回解禁されたビジュアルでも、キャラクターがネコとして登場していることが確認できる。幻想性の強い宮沢賢治作品とネコの相性がよいのはますむらの作品群、そして映画『銀河鉄道の夜』でも証明済み。また、監修として、宮沢賢治の研究家であり、自身も児童文学作家として活躍している詩人の天沢退二郎が参加しており、原作のイメージを損なうことのない作品に仕上がっている。
本作の製作が発表されたのは2008年。それから来年夏の公開までには約4年が経過することになり、その間には震災を含む大きな出来事があった。製作陣は、震災という困難を目の当たりにしている日本人へのメッセージを本作に託したといい、劇中のグスコーブドリの勇姿には観る者すべてが励まされるはず。一人でも多くの人に観てもらいたい作品だ。(編集部・福田麗)
映画『グスコーブドリの伝記』は2012年夏に全国公開