歴史ものなら検閲もパス!? 巨匠チェン・カイコー監督が中国での映画制作のコツを明かす!
映画『北京ヴァイオリン』や『花の生涯~梅蘭芳(メイ ラン ファン)~』などを手掛けてきた、中国を代表する名匠チェン・カイコー監督が、中国映画界のトップスターをそろえて贈る最新作『運命の子』へのこだわりや、中国での検閲制度などについて語った。
今回監督は、「子殺し」という強烈なテーマにひき付けられて、中国の歴史書「史記」に記された司馬遷の「趙氏孤児」をベースに本作を映画化したそうだが、その背景には中国の「検閲制度」への配慮も見え隠れする。ここ最近香港や中国で時代劇や歴史ものが多く作られている背景には、そういったジャンルの作品であれば、検閲を比較的簡単にパスすることができるという理由もあるのだとか。さすがは、文化大革命時に紅衛兵(こうえへい)として造反運動に参加し下放され、山村で樹木を伐採していたこともあるというカイコー監督。転んでもタダでは起きない。さらに、中国という国はこれまで一度も「人間の命が一番尊い」というヒューマニズムの時代を経ずに現代に至って、ずっと国や集団のために個人の命がないがしろにされる歴史の中、「個人を犠牲にして何かを成し遂げるというのは、ごく当たり前のことなんだよ」と少し怖いこともさらりと言ってのけた。
この物語の核となる男児・程勃(テイボツ)の子ども時代を演じた男の子と、少年時代を演じた二人の子役たちは、劇中で素晴らしい演技を見せるが、監督いわく「天真爛漫(らんまん)な子ほど、いい演技をする」のだとか。親の思うように育たないのが子どもというものだが、結局子どもがきちんと育つかどうかは、親を尊敬できるかどうかにかかっているといい、「今のところ二人の息子はわたしを尊敬してくれているから、特に問題はないね」と父親としての自信をのぞかせた。
撮影も順調に進んだそうだが、一番大変だったのは、やはり馬を使ったアクションシーンで、一日にたったの1カットか2カットしか撮れない日もあったのだとか。おまけにセットへのこだわりもかなりのもので、晋朝時代の街を再現するため、1年かけてオープンセットを作ったというから恐れ入る。自分はとても不器用な人間なので、「お米を食べるために、1年かけて苗から植えたようなもんだよ」と監督。実は料理の腕にも自信があるようで「わたしは高級コックだからね。作るものはなんでもおいしいよ」とニッコリ。
国際的に活躍する監督に、好きな日本人監督は誰かと問いかけると、「黒澤明監督や今村昌平監督という、わたしが尊敬する方々はだいたいもう亡くなってしまっているんだよ」と少し寂しそう。「でも、新藤兼人監督はまだ現役だよね? 彼も素晴らしい監督だね」とほほ笑んだ。また東日本大震災後、初めての来日についての感想は、「あれだけの災害を体験しながら、平常に戻っている日本はすごい!」と称賛。「わたしの映画にも、ぜひ平常心を持って観に来てほしい」と結んだ監督が贈る最新作で、その実力を改めてスクリーンで確かめてもらいたい。(取材・文:平野敦子)
映画『運命の子』は12月23日より全国公開予定