名女優メリル・ストリープを直撃!元英国首相マーガレット・サッチャー役について語る
アカデミー賞に16回もノミネートされ、映画『クレイマー、クレイマー』で助演女優賞、映画『ソフィーの選択』で主演女優賞を受賞している名女優メリル・ストリープが、元英国首相マーガレット・サッチャーを演じた話題の新作『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙 / The Iron Lady』について語った。
同作は、英国の政治家となったマーガレット・サッチャー(メリル・ストリープ)が、それまで男の世界だった政界で政治手腕を発揮して、女性史上初の首相に就任した軌跡と、「鉄の女」と呼ばれたその指導力をフォークランド紛争などを通して描き、さらに母親や妻としてのプライベートな部分も語られていく伝記ドラマ作品。サッチャーの夫デニス役をジム・ブロードベント、後に副首相となるジェフリー・ハウをアンソニー・ヘッドが演じている。監督は、映画『マンマ・ミーア!』のフィリダ・ロイドがメガホンを取っている。
メリル・ストリープは、毎日約2時間ものメイクアップを施して、マーガレット・サッチャーを演じていたそうだ。「年配のマーガレット・サッチャーの顔を作っていく過程は、すべてプロステティックス・デザイナーのマーク・コーリィエーのおかげで、それはまるで体の一部の組織のような薄さにメイクアップを仕上げてくれて、それがすごく自由な感じがして、全く演技に支障をきたすことがなかったの。その出来ばえも、まるでわたしに似た親戚の一人を見ているようだったわ」と明かし、演技だけでなくマーガレット・サッチャーの外見にもこだわったようだ。
母親としてのマーガレット・サッチャーとの共通点についてメリルは「サッチャー首相の1日の日程をカレンダーで見せてもらった際に、彼女の母親像を想像することができたわ。わたしも彼女と同じ母親だけれど、わたしは(映画界の)キャリアを通して、大概4~5か月働いたら、その後よく休んでいたために、家族と家で過ごすことが多かったの。でも、サッチャー首相は就任してからおよそ11年半もの長い期間、1日の間に10分もの自由な時間があると不機嫌になり、その時間は無駄な時間としていたらしいわ。それを彼女の子どもたちと並行して考えると、(母親として)かなり困難なものだったと思うの」と一国の首相となることは、家族さえも犠牲になることもあることを話してくれた。
女性指導者としてのマーガレット・サッチャー首相について「サッチャー首相が政界に入り、政党のトップとなり、さらに最も任期の長い首相として、あらゆる成功の妨げとなる包囲網をくぐって、ずっと首相として君臨し続けたことは称賛に値すると思っているわ。特に、当時の英国が抱えていた障害はとてつもなく大きなものだったから。だから、仮に彼女の政治活動に同意しなかった人がいても、彼女の決断力やスタミナ、勇気などは評価すべきだと思っているの。それに、もし誰かこれから彼女のようなスマートなリーダーになろうと準備をしている人がいたら、その人も評価すべきだよ! なぜなら、サッチャー首相のようになるには、相当な犠牲を強いられることになるから……」と語った。
若い頃のマーガレット・サッチャー首相を演じたアレクサンドラ・ローチや、デニス・サッチャーを演じたハリー・ロイドについて「アレクサンドラとハリーがダイニングでダンスするシーンが映画内であるんだけれど、あのシーンをセットで見て泣き出してしまったの。なぜなら、それまでずっとわたしはこの年配のサッチャー首相になりきっていて、感覚までサッチャー首相の歳になっていたのが、彼らのダンスを見た際に、彼らの(これから起きていく)人生が自分の目の前で走馬灯のように駆け巡っていく気がして、感情的になってしまったのよ」と感情移入してしまったことを明かした後、さらにこの映画を鑑賞してみて「完璧に(デニス役の)ハリーに惚れてしまったわ(笑)! サッチャー首相が、デニスに惚れた気持ちもハリーの演技を観ていると何となくわかったわ」と教えてくれた。
映画内では、フォークランド紛争や議会での討論も含まれるが、政治性の強い作品というよりは、マーガレット・サッチャーをプライベートな観点から見つめた作品といえるだろう。もちろん、メリル・ストリープの演技もさることながら、若い頃のサッチャー首相を演じたアレクサンドラ・ローチの演技も、それに劣らぬ魅力を感じさせている。はたして、今度もメリル・ストリープはオスカーにノミネートされるのだろうか? (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)