アカデミー賞外国語映画賞候補 ナチスの占領下のポーランドで14か月間下水道で暮らしていたユダヤ人とは?
映画『僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ』や『オリヴィエ オリヴィエ』などで注目されたポーランド出身の女流監督アグニエシュカ・ホランドが、新作『イン・ダークネス(原題) / In Darkness』について語った。
同作は、第二次世界大戦中のナチス占領下にあるポーランド(当時)の都市リボフで、下水労働者レオポルド(ロベルト・ヴィエツキーヴィッチ)は、虐殺から逃れたユダヤ系ポーランド人を下水道にかくまう。だがレオポルドは、その危険の代償としてユダヤ系ポーランド人から代金を取り始めていくが、徐々にナチスの脅威が迫ってきて、レオポルドのもとにも変化が訪れていくという実話を基に描かれたドラマ作品。さらに、ポーランドの代表作としてアカデミー賞外国語映画賞にもエントリーされ、今のところ最終選考前の9作品に選ばれている。
映画の設定がほとんど下水道であるため、ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダの作品『地下水道』を彷彿させることについて「アンジェイ・ワイダ監督はわたしの良き先生で、彼自身もわたしの作品をプロデュースしてくれたこともあったわ。それに、わたしがポーランドに居た際は、彼のほとんどの作品にかかわってきた。だから、彼の影響はすごく大きかったの。実際に彼の作品『地下水道』は、ポーランド人なら誰でも観ている作品よ。だから、今回の作品はそんな『地下水道』と比較されることがわかっていたから、ある意味では挑戦するつもりでこの映画を製作したわ」と明かした監督は、アンジェイ・ワイダ作品の脚本も執筆したことがある。
下水道での撮影について「予算が少なかったために、撮影監督のヨランタ・ディレウスカと共にレッドカメラで撮影することにしたの。さらにヨランタは、撮影は普通の照明を使って下水道でのシーンを撮影し、編集段階で暗さを調節しようと提案してきたけれど、わたしは暗さの中で恐怖に怯える俳優を撮りたかったために、映画内で俳優が使っているわずかな明かりだけで撮影することになったの。そのため、俳優にとっては厳しい状況だったと思うわ。ただ、そんな制限された明かりの中での撮影は、下水道をまるで大聖堂のような(奥深く、神秘的な)ものにさせていると思う」と述べた監督は、実際に起きたリボフの下水道では撮影できなかったが、ポーランド中の下水道をリサーチして、当時のリボフの下水道にちかいロケーションスカウトを行ったそうだ。
女流監督が手掛けるホロコーストを題材に扱った映画について「確かに女性が手掛けるのと、男性が手掛けるのでは大きな違いがあると思うわ。俳優たちも、よりオープンに接してくれる。それに女流監督だと、俳優としての威厳をわたしの前で誇示せずに、(気軽に)信頼関係を保つことができるの。それに、映画内ではセックスをしているカップルを観て、女性が自慰行為をするシーンがあるけれど、そんなシーンでもわたしが監督であることで、デリケートな対応ができたと思うわ」と語る通り、このほかに映画内では下水道での出産シーンなども描かれている。
最後に、実際にレオポルドによって下水道にかくまわれた十数人のユダヤ人は、およそ14か月も長い間、全く外に出られずに下水道で暮らしていた。映画は、飢餓の状態に追い込まれたユダヤ人の壮絶な生命力がみなぎった映画に仕上がっている。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)