カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞し、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたイスラエルの秀作『フットノート』とは?
今年のアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、カンヌ国際映画祭でも脚本賞を受賞しているイスラエル代表作品『フットノート(原題) / Footnote』について、ヨセフ・シダー監督が語った。
同作は、大学教授のエリエゼル(シュロモ・バル=アバ)はヘブライ宗教学を研究していたが、際立った成果が挙げられずにいたため学会では、存在感を失っていた。その一方、同じ宗教学の息子ウリエル(リオル・ルイ・アシュケナージ)は優秀な論文を発表したことで、学会はその功績をたたえてウリエルに賞を与えようとするが、誤って父親のエリエゼルに受賞の知らせを送ってしまったことから問題が生じていくというドラマ作品。映画『ボーフォート -レバノンからの撤退』のヨセフ・シダーがメガホンを取っている。
主役エリエゼルを演じたシュロモ・バル=アバと息子ウリエルを演じたリオル・ルイ・アシュケナージのキャスティングについて「シュロモは、映画『ピンク・パンサー』シリーズのピーター・セラーズのように予想がつかない俳優なんだ。シュロモは脚本を書いている時点で僕の念頭にあったんだよ。僕が実際に会ったシュロモは、僕のイメージ通りの人物だった。ただ念のため、彼と同じ年齢の俳優たちにもオーディションを行ったが、最終的にはシュロモに決めることになったんだ。一方で、リオルはイスラエルでは有名な俳優で、リオルのカリスマ性がこの映画をより素晴らしいものにしてくれたと思っている」と映画内で鍵を握る二人について語った。
この映画は、ヨセフの実の父親との関係を反映しているのだろうか。「この映画のシュロモが演じた父親は、わたしの父親とは違っていて、伝記的な要素はないんだ。ただ僕の父親は今も健在で、僕自身も父親であるんだ。だから、ある程度は僕の人生感が反映しているとは思う。この映画は親子関係の恐怖を描いていて、自分自身が後に、シュロモが演じたエリエゼルのような父親にならないかを懸念してもいるんだ」と述べ、映画内ではその微妙な親子関係が見事に描かれている。
ヨセフ・シダー監督は5歳のときからイスラエルで育ったが、ニューヨークで生まれ、大学時代には映画をニューヨークで学んでいたため、映画のアプローチが他のイスラエルの監督とは違う点について「実は僕はイスラエルでは、アウトサイダーという意識があるんだ。ただ、イスラエルという国は良いストーリーを構成するには、素晴らしい環境だよ。ただ、そこで矛盾が生じるんだ。僕がこれまで描いてきた作品は、僕のイスラエルの周りにいる人たちを通して、他の国の人たちがほとんど知らない世界を明らかにしてきたが、それと同時にそんな自分の周りにいる仲間の間では、僕はイスラエルに居るアメリカ人という感じなんだ。そのため、ある程度は他のイスラエルの監督たちと距離を置いた観点で映画を描いている感じがするんだ」と明かした。
ヘブライの宗教学でも、タルムードの研究とごく限られた研究者たちの中で、繰り広げられる人間関係が面白い。アカデミー賞外国語映画賞では、本命の映画『別離』に対抗するダークホース的な存在になるかもしれない。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki))