堤幸彦監督の新作は、都会のゴミを再利用して家を作る男の物語!ティーチインに涙ぐむ学生も
8日、早稲田大学の小野記念講堂で映画『MY HOUSE』のティーチインが行われ、堤幸彦監督と原作者で小説家の坂口恭平が、大学生と共に幸せの意味について語り合った。この日は主演のいとうたかおも会場に姿を見せた。
路上生活者の日常をモノクロで淡々と描き出した本作は、これまで「トリック」「ケイゾク」などエンターテインメント系の作品を数多く手掛けた堤監督にとって異色作だ。主人公は都市のゴミを拾って回り、まったくお金をかけずに0円で自分の家を作り出す。ガソリンスタンドから引き取った車の廃棄バッテリーで発電し、家にはテレビも完備。普段は街のアルミ缶を集めて、食費を稼ぎ、その金で豪華な食事を楽しむ。
本作で描かれている主人公の暮らしぶり、そして生活の知恵は、ゴミを多数生み出すことで成り立つ消費社会にどっぷりと浸かった現代人にとって、驚きのひと言だ。本作の原作者である坂口は「脚本には口を出さなかったが、フィルムにウソをのせるのだけは嫌だった。たとえば釘を拾う際にも、敷地の中だと窃盗罪になるので、ちゃんと敷地の外で拾うとか。些細なことなんですけど、そういったディテールはしっかりと出してもらうようにお願いした」と本作の描き方に納得した様子。
原作の主人公のモデルとなったのは鈴木さんという人物で、彼は今でも隅田川沿いのブルーテントで生活を続けている。坂口は「路上生活者を描いたというよりも、師匠(鈴木さん)の言葉を残したいという気持ちの方が強かった」と述懐。坂口は鈴木さんに「幸せ?」と尋ねたことがあるといい、「心から言いたいんだけど、むっちゃくちゃ幸福なのよ」と返されたという。
そして、「言葉をにごす人がほとんどなのに。その迷いのなさが衝撃的だった」と語る坂口の言葉を受け、参加した女子学生が「わたしが問題に思っていることが映画に提示されていて。自分の無力さとか、あきらめなきゃいけない気持ちとか……」と感想を述べようとするものの、考えをうまく言葉にできずに涙ぐむひと幕も。「主人公のような暮らしが自分にもできると思う?」という呼び掛けに、学生たちは誰も手を挙げることはなかったが、その心には何か感じることがあったようだ。(取材・文:壬生智裕)
映画『MY HOUSE』は5月26日より新宿バルト9ほかにて全国公開