映画のためなら女房も泣かす監督! ジョン・カサヴェテスとは?
没後23年を経た現在も、特集上映や放映企画が組まれ、「アメリカン・インディーズ映画の父」の異名をとり、多くの映像作家の尊敬を集めているジョン・カサヴェテスの軌跡を追いつつ、魅力に迫った。
1959年のデビュー作『アメリカの影』以来、59歳で世を去るまで、カサヴェテスは自主制作映画の秀作を生み出した。彼ほどの映画監督ならば、ハリウッドで成功することも可能だったろう。実際ハリウッドのスタジオから声を掛けられ、何編かを演出したが、スタジオに作品の内容をコントロールされることは免れなかった。以来カサヴェテスは撮りたい作品を撮りたいように撮ることにこだわり、ハリウッドとは距離を置いたのである。
とはいえ、自主制作映画に出資したがる人はそういるものではない。そこでカサヴェテスは製作資金を自ら捻出することになる。俳優業で稼いだ金をすべて映画制作に注ぎ込み、『アメリカの影』では当時妊娠中だった妻で女優のジーナ・ローランズに借金をし、『フェイシズ』では自宅を抵当に入れて資金を捻出。スタッフはもちろん、キャストも友人たちが無報酬で参加するのは当たり前。彼が撮った作品の中には妻ローランズのほか、「刑事コロンボ」でおなじみのピーター・フォークといった実力派もいたのだから、優れた才能のもとには優れた才能が集まってくるともいえる。
『フェイシズ』では愛の喪失と人間の孤独を鋭く見据え、『こわれゆく女』では、一人の母親の精神の崩壊と家族の献身を丹念に描き切り、『オープニング・ナイト』では舞台女優の開演前の極限の緊張を描き切る。いずれも、登場人物の息遣いが聞こえてきそうなほどリアルで、濃密な描写がさえ渡る。これらの作品はハリウッド大作のようなヒットを記録したわけではないが、世界中の映画祭で高く評価された。ジャン=リュック・ゴダールやマーティン・スコセッシ、ヴィム・ヴェンダースといった世界中の名だたる鬼才がリスペクトを口にしているのも、カサヴェテスの才気の証明だ。
身を削るような映画制作によって実力を証明した巨匠カサヴェテス。インディーズ映画の良心というべき彼の、スピリットがこもった作品に触れてみてはどうだろう。(猿園楽)
映画『アメリカの影』は7月3日よる11:30よりWOWOWシネマにて放送