トゥパック・シャクール襲撃事件の犯行を認めたジミー・ヘンチマン、彼の弁護士は犯行を否定?
今年の6月12日にヴィレッジ・ヴォイスに掲載されたチャック・フィリップス記者の記事によると、伝説のラッパー、トゥパック・シャクールを襲った1994年の強盗事件で、これまで関与を否定してきたジミー・ヘンチマン(本名ジェームズ・ロズモンド)が、首謀者であることを名乗り出たことが明らかにされたが、この報道に対して今度はジミー・ヘンチマンの弁護士ジェラルド・シャーゲル氏が、この記事はねつ造されたものであるとジミー・ヘンチマンの犯行を否定していることが、MTVとのインタビューで明らかになった。
まず、1994年に起きた同強盗事件は、トゥパック・シャクールがニューヨークのマンハッタンのレコーディング・スタジオで何者かに襲われ、5発の銃弾を受けたが一命を取りとめた襲撃事件。だが、当時その事件現場に居合わせた東海岸で活躍していたラッパー、ノトーリアスB.I.Gとショーン・コムズらを、トゥパックが疑ったことで、ヒップホップ業界の西海岸と東海岸の対立が勃発する。そして、この対立が1996年のトゥパック・シャクールと1997年のノトーリアスB.I.Gの殺害事件を巻き起こしていった。そのため、このトゥパック・シャクールの強盗事件はヒップホップ業界を揺るがす一連の事件の発端となった事件として広くこれまで認識されてきた。
ここからがいろいろ説明が難しくなるので、少し整理して紹介したい。まず、このジミー・ヘンチマンが犯行を認めた記事を執筆したチャック・フィリップスという記者は、2008年にもロサンゼルス・タイムズ紙で、ジミー・ヘンチマンがトゥパック・シャクールの強盗事件に関与しているとした記事を執筆し、さらにその記事はUSA vs ジェームズ・ロズモンド(ジミー・ヘンチマン)の法廷裁判で、参考資料としても提出されたものの、この2008年の記事は偽造された裁判所文書に依存したものであるとして、ロサンゼルス・タイムズ紙が後に撤回していたことがあった。ここまで聞くと、ねつ造した記事を書くとんでもない記者のようだが、昨年の6月に、現在は殺人、強盗、詐欺の事件でブルックリンに服役しているデクスター・アイザック受刑者が、1994年当時、音楽会社のマネジャーをしていたジミー・ヘンチマンが、トゥパック・シャクールをマンハッタンのレコーディング・スタジオの外で襲うことを依頼し、その報酬として2,500ドル受け取ったことを告白したことで、このチャック・フィリップス記者の記事が擁護される形となった経緯があった。
そして今年の6月12日に、このチャック・フィリップス記者が、本来プライベートな情報である検察とジミー・ヘンチマンとの間で行われたProffer Session(起訴するために使用できない陳述書であることを容疑者が合意のもとに、犯罪を告白するという事情聴取)を検察から手に入れ、ジミー・ヘンチマンがトゥパック・シャクールを襲った1994年の強盗事件の首謀者であると記事にしていた。
ところがこの度、ジミー・ヘンチマンの弁護士であるジェラルド・シャーゲル氏が、検察から情報を手に入れたこのチャック・フィリップス記者の記事に応戦してきたというわけだ。そのジェラルド氏がMTVとのインタビューで「検察官の陳述書によるジミー・ヘンチマンのトゥパック・シャクールを襲った1994年の強盗事件の犯行の告白や承認は完全に間違っている。ジミー・ヘンチマンは、最初からトゥパック・シャクールの強盗事件にかかわっていること断固として否定してきた」と、チャック・フィリップスの記事ではなく、検察の陳述書自体に疑いを持つ発言をしたようだ。
さらに同弁護士は、ジミー・ヘンチマンがこの犯行を告白したとされるProffer Sessionはプライベートなもので、公共にさらされるべきものではないとも訴えている。
ところが、この弁護士ジェラルド・シャーゲル氏のMTVとのインタビューに対して、米連邦検事ソウミャ・ダヤナンダ氏は「(弁護士の)シャーゲル氏が、これが(検察の陳述をもとにしたチャック・フィリップス記者の記事を)偽造された記事と主張するなら、我々政府は、この陳述書は被告人が襲撃を認めたものであるという立ち位置をとることになるだろう」とコメントし、ジェラルド・シャーゲル氏の疑いを一刀両断している。
現在、このジミー・ヘンチマンは昨年の2月に歌手50セントの取り巻きの一人であったロディ・マック(本名ローウェル・フレッチャー)の殺害(嘱託殺害)で逮捕され、さらに今年の6月5日に麻薬取引でも有罪となっていた。
しかし、トゥパック・シャクールを襲った1994年の強盗事件は、出訴期限法によりすでに時効となってしまっているため、現在は同強盗事件でジミー・ヘンチマンを訴えることもできない。筆者自身、記事を書きながらも複雑に思えるこの事件の真相は、永遠に闇に葬り去られていくということなのだろうか? (細木信宏/Nobuhiro Hosoki)