ロマン・ポランスキー監督がスイス当局に逮捕された事件を描いたドキュメンタリーが完成
第50回ニューヨーク映画祭(50th N.Y.F.F)に出品されているドキュメンタリー作品『ロマン・ポランスキー:オッド・マン・アウト(原題) / Roman Polanski : Odd Man Out』について、マリーナ・ゼノヴィック監督がSkypeを通しての記者会見で語った。
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2008年にマリーナ・ゼノヴィック監督は、ロマン・ポランスキー監督が1977年に起こした当時13歳だった少女への淫行事件を扱ったドキュメンタリー映画『ロマン・ポランスキー:ウォンテッド・アンド・デザイアド(原題) / Roman Polanski : Wanted and Desired』を制作したが、その映画が原因でスイス当局が2009年にチューリッヒ映画祭にて、生涯功労賞を受賞するはずだったポランスキー監督を逮捕して、身柄を拘束してしまった。そして、今作はその身柄拘束事件を追いかけたドキュメンタリー作品になっている。
続編のような形で再びポランスキー監督を描くことになった経緯は、「前作を2008年のカンヌ国際映画祭に出品したところ、その年の12月にロマン・ポランスキーの弁護士がわたしに連絡してきて、レイプ事件の起訴の取り下げ要求の証拠品(ポランスキーに有利な形で描かれていたため)として映画を提出したいといってきたの。それで交換条件として、ポランスキーへのインタビューを2009年11月に設定したの。前作の制作に5年もかけたから、新たな企画を立ち上げようとしていたんだけれど、結局企画は立ち上げずに、ポランスキーを題材にして引き続き撮影し、彼とのインタビューを含めた短編を撮影することにしたの。けれど、例の身柄拘束事件があったために、彼とのインタビューは取り消されて、代わりにこの身柄拘束事件の真相を追うための撮影をすることになったわけ」と明かした。
ポランスキー監督との関係について「すべては彼の(淫行)事件から始まったから、控えめに言ってもわたしと彼の関係は複雑よ。それにわたしは彼の(弁護士)チームの代弁をすることもできないからね。彼ら弁護士チームは、前作を証拠品として利用することで、レイプ事件の問題を解決しようとしたけれど、結局彼は逮捕されてしまった。だから複雑なの。それに、ポランスキーは前作も今作も観ていないから、わたしのドキュメンタリー制作に対して、どう感じているかもわからないわ。ただ、この身柄拘束事件はポランスキーや彼の家族、そして淫行事件で被害を受けたサマンサ・ゲイマーや彼女の家族にも大変な時だったと思うわ。だから、今のところはポランスキーとの関係は複雑としかいえないわね」と語った。
淫行事件の被害者サマンサ・ゲイマーについて「サマンサ・ゲイマーはわたしに対して実直でいてくれたわ。だから毎回彼女に会う度に、彼女が正直にこの映画のために答えてくれたことに感謝しているの。けれど、彼女は現在自叙伝を書いていて、この映画に参加したことも含まれるのかはまだわからないけれど、(この映画が彼女の自叙伝の宣伝になるから)多少皮肉だと思っているわ。でも彼女は、本(自叙伝)を書きたいから、書くつもりでいるわと言っているくらい、あの淫行事件を隠したりはしていないの。だから、撮影も最初から彼女とは話しやすかった」と語り、さらにサマンサ・ゲイマーの母親とも話せたことは良かったと答えている。
最後にポランスキー監督は、アメリカに戻ってくることはあり得るのかという問いには「彼の弁護士は楽観的に考えているし、わたしも楽観的な方だけれど、現実はそうではないわね」と答えた。前作とともに今作を鑑賞することで、長きにわたるポランスキー監督の逃亡の真相が明確に見えてくる。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)