日本の美術監督が韓国の学生に特別講義!イランの名匠のこだわりに学生たちも驚嘆!?
イランの名匠アッバス・キアロスタミ監督作『ライク・サムワン・イン・ラブ』などで美術を担当した磯見俊裕が、第17回釜山国際映画祭(BIFF)の「マスタークラス」で特別講義を行った。
磯見が参加した映画『ライク・サムワン・イン・ラブ』写真ギャラリー
崔洋一監督の『血と骨』、是枝裕和監督の『誰も知らない』、アミール・ナデリ監督の『CUT』などさまざまな監督の作品に参加し、毎日映画コンクールをはじめ数々の賞に輝く磯見。その彼が、映画を学ぶ地元の学生たちを主な対象としたレクチャーは、『ライク・サムワン~』における仕事を中心に、映画美術について、そして自身の映画人生について語るものとなった。
『ライク・サムワン~』は、『友だちのうちはどこ?』『トスカーナの贋作』のキアロスタミ監督が、初めて日本を舞台に撮影した人間ドラマ。仕事の依頼を受ける前、監督の作品を2本観しか観ていなかったという磯見。キアロスタミ監督はプロの役者を好まないとのウワサを聞いたほか、ドキュメンタリータッチの作風であること、台本も27シーンで構成された薄いものであったことから、「軽い気持ちで」仕事を受けたという。
ところがいざロケハンが始まると、監督は自然にあるものをそのまま撮るどころか、「映画は哲学と構図だ」と公言する“こだわりの塊”であることが判明。老教授が暮らすマンションの室内外を撮るため別々に3か所で撮影をした裏話や、テーブルの形やカフェの奥行きにまで及ぶこだわり、カットのつなぎも観客の視線を動かさないよう意識するなど、実験精神に富んだキアロスタミ流哲学が明かされるたびに、客席から驚きの声やため息が漏れていた。
また磯見は、撮影後に手術を要するほどだった歯痛を忘れるほど緊張と痛みに満ちていたという『血と骨』の現場、自然に見せながら計算し尽くされた画づくりという意味ではキアロスタミ監督に近いこだわりを持つという是枝監督のエピソードなども披露。最後に、映画美術について「カメラに2割映ったら御の字。だけど、残りの8割は役者さんの目に見えていて芝居に反映される」と語り、約2時間の講義を終えた。(取材・文:柴田メグミ)