園子温監督、学生たちと原発問題についてのトークセッションを行う
13日、早稲田大学戸山キャンパスにて、東日本大震災の被災地・気仙沼でもロケを行った映画『希望の国』の学生向け試写会が行われ、脚本・監督の園子温監督が出席して、映画のテーマのひとつでもある原発について学生たちとトークセッションを行った。
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「園監督らしい過激な描写がこの作品では抑制されているのでは」と、のっけから学生側の突っ込んだ質問を受けた園監督。これに、「このテーマは別枠」と答える。「これだけでなく、これからも福島や3・11を題材にした映画を作っていこうと思っている。描写の過激さは原発や3・11の恐怖をただ煽るだけなので、このテーマではもう少し冷静な表現をと考えた」と、これまでの作品との違いを強調する。
原発がテーマになったことについて「人間は慣れる生き物。原発の問題にもだんだん慣れてしまう。この映画を、慣れを揺さぶるような存在にしたかった」と語る。実生活でもガイガーカウンター2台を所持し、日本だけでなく海外へも持ち出して測定をしたりしている監督は「東京に住んでいる人は、ここを安全だと思っているかもしれませんが、実はここも被災地です。日本自体が福島です」と、問題に慣れつつある今の日本に警笛を放つように言葉を続けた。
一部の撮影は福島県で行われた。現地ではやはり「放射能」という言葉を口にしにくかったと振り返る。そういう言葉に触れないようにする風潮があり、現地の居酒屋などで「放射能」という言葉を会話に出すときも、「ノウ」と暗号のように置き換えて話したというエピソードなどを紹介し、監督自身はそういう風潮に疑問を感じていると述べた。
パフォーマンス集団のChim↑Pomが、「広島の空をピカッとさせる」アートをしたら、いろんな団体からクレームが来たというエピソードを例に挙げた監督は、その際、唯一Chim↑Pomを支持したのが実は現地の「原爆を語り継ぐ会」の高齢者だったと言い、彼らも「みんなそんなこと忘れたいから、もうそんなことを語るのをやめろ」と言われているという現地の複雑な心理があることを紹介した。
映画は福島を舞台に撮るつもりだったが、いろんな場所を取材するうちに、広島、長崎、福島の三都市の名前を合わせた「長島」という架空の地を舞台に作ることに変更した。「南相馬以外の場所が描けないのはいかがなものかと思った」と園監督。「圏内でも圏外でもないボーダーな場所を描けばいいんだと思った」と話す。
ドキュメンタリーにすることもできたが、作品はあえてドラマ仕立てを選んだ。「ドキュメンタリーだとすべてが過去形。でも、ドラマは進行しているものを見せることができる。情報をもとに知識で考えるだけでなく、進行しているものを見て、情感で受け取ることが見る人に新しい引き出しを与える。それこそドラマの役割」と監督は熱弁する。
学生からは冒頭、とにかく映画の各シーンへの意味を問うような質問が目立った。園監督は、これらに丁寧に受け答えしつつも、「ひとつひとつ種を明かしていくような質疑は面白くもなんともない。映画はそれそのものが巨大な質問状。みなさんがそれぞれに答えを導けばいい」と牽制もした。情感で受け取り、それぞれの答えを導くことが大事だと。
また、「僕らが憧れていたブレードランナー的な世界がかっこいいと言えない時代になった」とも話し、映画タイトルの『希望の国』について意味を聞かれると「希望とはめちゃくちゃ絶望した人にしか与えられない感性だと思っている」と答え、「皮肉に満ちたタイトルだと思われるかもしれないが、福島で震災後最初の初日の出を見にいったときに、福島の放射能を含んだ風を吸い込みながら、このタイトルでいいと思った」と力強く語った。
(取材・文 名鹿祥史)
映画『希望の国』は10月20日より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開