『ポンヌフの恋人』レオス・カラックスが13年ぶりに描いた長編‐ニューヨーク映画祭
現在開催されている第50回ニューヨーク映画祭(50th N.Y.F.F)で、映画『ポンヌフの恋人』や『ポーラX』などで知られるレオス・カラックス監督が、新作『ホーリー・モーターズ(原題) / Holy Motors』について語った。
同作は、オスカー(ドニ・ラヴァン)は毎朝白いリムジンに乗って仕事に出かけるが、その行き先はその日運転手によって渡された書類をもとに決められる。そしてその書類には、様々な場所で種類の違った役柄(殺し屋、モンスター、物乞い)を演じるという仕事が記されていた。映画は、オスカーの1日の断片が、観客の受け止め方次第で多様な概念に変わっていく。監督は、前作『ポーラX』以来13年ぶりに長編作品を手掛けたレオス・カラックスで、主演は同監督作品の常連であるドニ・ラヴァンが務め、さらにエヴァ・メンデスやカイリー・ミノーグも共演者として参加している注目作。
デジタル撮影をした経緯は「オムニバス映画『TOKYO!』をデジタルで撮影して以来、フィルムでの撮影をやめたんだ。悲しいことだが、映画界で生き抜くには仕方ないことで、もちろんフィルムで撮影することに反対しているわけではないが、自分の撮りたい映画を撮影するためには対応していかなければならない」と語り、13年ぶりに手掛けた長編作品だけに、重みのある言葉に感じられた。
いろいろな役柄をすべて演じきるドニ・ラヴァンについて「彼とは今から30年以上も前に出会い、この映画を含め5作もタッグを組んだことになるが、彼のプライベートなことは僕は全く知らなくて、ただ一緒に映画を撮影しているだけなんだ。撮影現場でもそんなに話したりしない。コスチュームの選択や(映画内の)身体的な動きについて語るぐらいだ。彼は僕が長編を製作していなかった期間に、徐々に素晴らしい俳優に成長していったんだ」と評価した。すべての役をドニ・ラヴァンに任せたことで、その長年の信頼感が結晶となって映像に映し出されている。
歌手として活躍するカイリー・ミノーグをキャスティングした理由は「実は彼女が出演していたホテルのシーンは、以前はデパートがあった場所で、そこで撮影したかったが、今は高級感のあるホテルに変わってしまったんだ。キャスティングに関しては、まるで幽霊のように神秘的なイメージで、さらに歌える女優を探していたときに、フランスの知り合いの女性監督が以前にカイリー・ミノーグに会ったことがあって、彼女がカイリー・ミノーグを紹介してくれたんだ」と答えた。当初はジュリエット・ビノシュをキャスティングする予定だったらしいが、彼女が断ったことで、今回の興味深いキャスティングになったようだ。
映画は、現実と非現実が共存する不思議なレオス・カラックスの世界で、彼が生み出す個々の役柄が、感情のうねりとなって心に染み渡ってくる作品に仕上がっている。鑑賞後には、自分自身も誰かが演じているのではないかという感覚にさせられた。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)