トルコ話題の新作『 天と地の間のどこか』の女流監督が描く少女の究極の選択
第50回ニューヨーク映画祭(50th N.Y.F.F)に出品された話題のトルコ映画『Araf/Somewhere in Between(英題) / 天と地の間のどこか』について、イェシム・ウスタオウル監督が語った。
同作は、トルコの郊外の高速沿いのドライヴインレストランで働く少女(ネスリハン・アタギュル)は、単調な毎日を送っていたが、ある日、赤いトラックに乗った男性ドライバーに恋をしたことで、視野の狭い世界に変化が訪れるが、彼との間に少女の人生を変える出来事が突如起きてしまい、彼女は究極の選択を迫られるというドラマ作品。イェシム・ウスタオウル監督は、映画『遥かなるクルディスタン』で、ベルリン国際映画祭でヨーロピアンフィルム賞と平和賞を受賞している。
制作過程について「前作の『パンドラの箱』を制作した後、2009年に『パンドラの箱』の宣伝でトルコの国内を移動していたの。そのとき、あるドライヴインで、短い時間を高速のドライヴインで過ごす人たちと、そのドライヴインにある店やレストランで働く人たちを通して、産業がもたらす力にインスパイアされて、徐々に脚本を書き始めていったの。それから、さらに恋愛の話にも発展させていったわ」と語った。映画内では、様々な人生を抱えた人々が、わずかなときを過ごす姿が興味深く描かれている。
主役を演じるネスリハン・アタギュルの演技を鑑賞すると、自然な演技がプロの女優には見えなかった。「実は、少女役を演じたネスリハンは4年前にテレビシリーズの小さな役で出演していて、トルコ内では知っている人もいるかもしれないけれど、このような映画にキャスティングされたことで、大きな責任を感じていたと思うわ。このほかのキャスティングでは、少年役のバルシュ・ハジュハンは全く演技経験がなく、これが初めての映画作品なの。さらに、トラックドライバーを演じたオズジャン・デニズは、俳優兼歌手でもあるアーティストなの」と明かした。
この映画のタイトル(英題)にあるArafは、撮影場所でもある。「アラフという街は首都アンカラに近く、イスタンブールとアンカラの間をつなぐ高速の途中にあって、産業が発達した都市と田舎街のちょうど中間にあるような場所にあるの。そんな中間を示す場所Arafは、この少女と少年にも深い意味合いがあって、彼らも人生において、すでに子どもから少女や少年に成長して、今まさに大人になりかけている途中なの。そんな多感な時期に、少女はドライバーと先が見えない恋に落ちていくわけなの」と語った。さらにこのArafという言葉は、天国と地獄の間に位置する「煉獄(れんごく)」を意味しているそうだ。
映画は、あらゆる場所に向かっていく人々が通り過ぎるドライヴインで、くすぶった生活を送り続ける少女のもどかしい繊細な感情と、恋に落ちてときめく表情が我々の胸を突き刺していく。全編を通して台詞が少なく、それを代弁するような背景や人物描写が注目の作品だ。同作品は、東京国際映画祭でも、TOHOシネマズ 六本木ヒルズにて10月23日、27日に上映される。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)