園子温監督、幻の作品は地下鉄サリン事件を予見していた…制作中のエピソードを明かす
映画『愛のむきだし』などで知られる園子温監督が1995年に制作した幻の映画『BAD FILM』が24日、現在開催中の第13回東京フィルメックスで上映され、園監督が撮影当時のエピソードを明かした。
本作は、香港返還に沸く1996年から1997年の東京を舞台に、日本人自警団と外国人グループの衝突を壮絶に描くバイオレンス映画。園監督主宰のパフォーマンス集団「東京ガガガ」メンバーが出演しており、1995年にHi-8(8ミリビデオの高画質バージョン)で撮影されたが、未完のままとなっていた。
タイトルの「悪い映画(BAD FILM)」に込めたメッセージについて、園監督は「1995年の撮影当時、『いい子いい子』な日本映画に対して、もっとたちの『悪い映画』を撮ってやろう」との意図からつけたと説明。実は作品のラストでは地下鉄でテロが起きる設定だったというが、「撮影の終わりごろに、本当にオウム(真理教による地下鉄サリン事件)が起きたので止めた」と衝撃の事実を告白。それは裏を返せば、本作が「時代の空気を先読みしようと思って作った映画」という園監督の言葉通りの作品だったということになる。
また、自ら主宰した「東京ガガガ」についても園監督は言及。「あらゆる意味においてゼロ」を目的とするため「存在を残すつもりはなかった」といい、散り散りになった当時のメンバーは現在いろいろなところに潜伏しているとのこと。「この間、税務署から電話がかかってきたんですけど、(電話の相手が)『あなたはわたしがわかりませんか? わたしは”ガガガ”です』って」と興味深いエピソードを披露する一幕もあった。
もし「ガガガ」をやっていなかったらという問いに対して、園監督は「映画に執着しすぎて、時代とか人間の魂との接合を失って、どうでもいい人になっていたと思う」と明かす。「エネルギーを注ぎ続けるためには、自分を破壊することが大事。だから毎日、破壊してください!」と語りかけると、観客は神妙な顔つきでうなずいていた。(取材・文:尾針菜穂子)
「第13回東京フィルメックス」は有楽町朝日ホール・東劇・TOHOシネマズ 日劇にて12月2日まで開催中