黒澤、小津の陰に隠れた木下惠介作品に今こそ再評価を!橋口亮輔監督らが魅力を検証
1日、東劇で木下惠介生誕100周年記念シンポジウムが行われ、脚本家の山田太一、『ぐるりのこと。』の橋口亮輔監督、映画史家ウルリッヒ・グレゴール、小説家の長部日出雄らが木下作品について大いに語った。
『二十四の瞳』『永遠の人』など映画史に残る傑作を数多く発表し、黒澤明、小津安二郎らに並ぶ功績を残した木下監督。しかし、その実力に見合った評価を得られていない状況が長きにわたり続いていた。そんな中、今月5日に生誕100年を迎えることから「木下惠介生誕100年記念プロジェクト」がスタート。徐々に再評価の機運が高まっている。
同プロジェクトに合わせ、木下監督の代表作『二十四の瞳』の新予告編を制作した橋口監督。自身は、1979年の映画『衝動殺人 息子よ』で息子を殺害された父親の姿に衝撃を受けたそうで、「いまだかつてあれだけ泣いたことがないというくらいに泣いた」と述懐する。
評伝「天才監督 木下惠介」を発表するなど、木下作品に造詣の深い長部は、『衝動殺人 息子よ』について「当時は加害者側から、暴力の魅力を描く風潮が支配していたので、インテリたちは『木下は終わった』と言っていた。しかし木下さんは一貫して弱い立場から描いており、実はずっと先を走っていた」と解説。それを受けて山田は「木下さんの映画の出演者は涙に感情の価値があり、泣くのが特徴。ほかに何もする能力はないけど、泣いてあげることならできると。誰がどこで泣くのか、それが木下作品の見方のポイントだと思います」と付け加えた。
さらに、名作『二十四の瞳』についても橋口監督は熱弁を振るい、「木下監督は人生の厳しさや孤独を知っている人だと思いました」と絶賛。最後には長部が「かつて日本映画は世界でもトップクラスの豊かさを持っていました。木下再発見が、現代の日本映画の深みにつながればと思います」と締めくくり、会場からは大きな拍手が起きた。(取材・文:壬生智裕)
特集上映「木下惠介生誕100年祭」は東劇にて開催中