ピーター・ジャクソン監督が明かす、話題のドキュメンタリー作品『ウェスト・オブ・メンフィス』
映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのピーター・ジャクソン監督が、自ら製作したドキュメンタリー作品『ウェスト・オブ・メンフィス(原題) / West of Memphis』について、えん罪事件で釈放されたダミアン・エコールズと共に語った。
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同作は、1993年アーカンソー州ウェスト・メンフィスで3人の8歳男児が殺害され、3人のティーン(ダミアン・エコールズ、ジェイソン・ボールドウィン、ジェシー・ミスケリーJr)が容疑者として逮捕。その後、裁判で有罪判決が下された。ところが、後に不十分な証拠や自白強要などから犯人に仕立て上げられた冤罪説が浮上。その後DNA鑑定が行われ、真犯人と彼ら3人のDNAが一致しなかった。ところが、このDNAをもとに再審が可能か否かを決定する前に、なんとこの3人が釈放されるという異例の出来事が起きる。監督は映画『フロム・イーブル ~バチカンを震撼させた悪魔の神父~』のエイミー・バーグがメガホンを取っている。
ピーター・ジャクソン監督がかかわった経緯は「僕ら(妻も含め)は、最初は映画製作の予定はなく、DNA、法医学、病理学の専門家に資金を提供しながら事件について調べていたんだ。それがいつの間にか、彼ら3人の弁護士チームともかかわるようになった。ところが、この裁判にかかわったバーネット判事が、新たな証拠(DNAなど)に対して、これまでの判決が覆ることはないと発言したことで、僕らはそれまでの取材と、新たな証拠でドキュメンタリー映画の製作を決意し、それをエイミー・バーグに委ねて真実をさらけ出そうとしたんだ」と述べた。
妻ロリ・デイヴィスについて、ダミアンは「ロリ、フラン(ピーターの妻)、ピーターはチームの核として、弁護士や探偵よりも働いてくれた。実は、僕とロリが手紙のやり取りで知り合って、この事件のために働いてくれてから、およそ17年にもなるんだ。彼女は、僕のために仕事を辞め、アーカンソー州に引っ越し、このケースにかかわった。彼女がかかわるまでは、過去の弁護士を通して悪い体験をしてきたが、彼女がそれを変えてくれた。僕らの裁判の調査資金が底をついたときは、彼女が個人ローンで払ってくれたこともあった。彼女のおかげで、今ここで僕はインタビューに応じられる 」と感謝した。
刑務所での経験について「僕にとっては空腹状態や殴られたことより、 普通に会話やアイデア交換ができない、冷たく空っぽで、まるで魂がないような部分を持つ刑務所の方が怖かった。最初の数年間は、誰か話しかけてくるのを待ったが、誰も話しかけてこなかった。その理由は、普通の人間は人を殺さないからだと気付き始めた。実際に、新たな囚人たちはいつも精神異常をきたした人ばかりだった。いったん刑務所のドアを開けると、全く別世界であると気付かされるんだ」と語った。
映画は、容疑者だった彼ら3人が多くの人々の支えを得て、信念を持って真実を追究していく姿が見事につづられている。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)