日本で撮影予定だったベネチア最高賞受賞作、中東で賛否
アラブ首長国連邦で開催された第9回ドバイ国際映画祭で、韓国映画『ピエタ(原題)』のキム・ギドク監督がアジア・アフリカ長編コンペティション部門で最優秀監督賞を受賞した。ギドク監督は授賞式は欠席したものの、上映に合わせて初のドバイ入り。本年度ベネチア国際映画祭最高賞受賞監督の登場に、地元メディアやファンが沸いた。
映画『ピエタ(原題)』第9回ドバイ国際映画祭フォトギャラリー
上映後に行われたQ&Aでは、質問者が皆、最初に「あなたにお会いできて光栄です」と口にした。その目は、憧れの人を目の前にして輝いて見えた。ただし映画は、非情な借金取りの男と、突然現れた母だと名乗る女が織り成す心理劇で、時に憎悪や怒りが目を覆いたくなるような暴力シーンとなって現れる。
それに耐えられずに退場した人も多かったが、最後まで残った人も衝撃が隠せないようで、「韓国では、劇中にあるような借金を苦に自殺したり、マフィアが死に追いやったりすることが本当にあるのか?」などと矢継ぎ早にギドク監督に質問を浴びせた。ギドク監督は「わたしは映画の舞台になった下請け町工場で育ちました。この作品に限らず、すべての映画が、わたしの体験がベースになっています」と説明した。
同作品は資本主義に支配される世を憂いて制作されたものだが、映画そのものもお金に振り回された。当初は日本人キャストを起用して大阪で撮影予定だったが、撮影許可を得るのが困難だったことに加え、資金難で頓挫した。ギドク監督は「最初に依頼したベテラン女優には1年待ってもらったのですが……、本当に残念です」と悔しそうな表情を浮かべた。
現在、ギドク監督は新作の脚本を執筆中だそうで、ベネチア受賞後だけに大作が期待されるが「いやいや、また低予算ですよ」とニヤリ。最後は、ドキュメンタリー映画『アリラン』以降すっかりおなじみとなった、韓国民謡「アリラン」を高らかに歌い上げ、ドバイでも健在ぶりを見せつけていた。(取材・文:中山治美)
映画『ピエタ(原題)』は2013年夏Bunkamuraル・シネマにて公開予定