アカデミー賞4部門ノミネート『ハッシュパピー ~』が描いたのは勇敢なマイノリティーたち
今年のサンダンス映画祭でグランプリを獲得し、アカデミー賞作品賞にもノミネートされた話題の独立系作品『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』について、ベン・ザイトリン監督が語った。
オスカーにノミネート! 映画『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』場面写真
同作はの主人公は、ルイジアナ州にある“バスタブ”と呼ばれる湿地帯にある家で、病気を患う父親ウィンク(ドワイト・ヘンリー)と暮らす6歳の少女ハッシュパピー(クヮヴェンジャネ・ウォレス)。ある日ハリケーンで川の水が溢れ、家が水に漬かってしまう。さらに衛生環境が悪化したために、バスタブの住民たちは強制的に病院に避難させられる。そこで彼女は、音信不通の母親を捜しに出かけていくが、かつて百獣の王であった伝説の動物「オーロックス」と出会ってしまうというファンタジー要素のあるドラマ作品。ベン・ザイトリン監督は、本作でアカデミー賞作品賞、監督賞、脚色賞、主演女優賞の3部門にノミネートされている。
この映画の舞台となったルイジアナ州にあるバスタブ島がもたらすユートピア的な感覚とは「この地は、他の土地と違い全く経済的な要素がなく、お金が流通することもない。それに宗教の区別もなければ、政治的な見解の違いもない。当然、老人と若者もみんな一緒だ。そのためステレオタイプ、憎しみなどを含めた人種差別的な要素もない。それが、このバスタブ島がもたらすユートピア的な要素なのかもしれない」と特別な場所であることを語った。
今作を鑑賞した一部の人たちから、無知で貧しい黒人を描いているとして人種差別的な映画と批判されていたことについて「僕自身はこの映画に出てくるキャラクターは無知だとは全く思っていなくて、むしろ賢く勇敢なヒーローだと思っている。僕は個人的に、社会的少数派が人種問題で社会に還元していることを描いた映画がまだまだ少ないと思っている」と語り、さらに「この映画の舞台となったルイジアナ州のバスタブの人々は、オフ・ザ・グリッド(電力会社供給に頼らない)生活をし、十分な生計が立てられ、さらに独立もしている。この地に住む人は、みんなこの地を選択して生きているんだ」とこの地の人々に感心させられたそうだ。
今作では、かつて百獣の王であった伝説の動物「オーロックス」を描くなど、ファンタジー要素がある点について「僕はこの作品をファンタジー映画だとは思っていない。6歳の主人公ハッシュパピーにとってのポートレイトなんだ。彼女は形のある物だけに想像を委ねず、感情を非現実的な空間に溢れださせ、それを僕は叙情的で詩的な表現として描いている。彼女の観点を僕らは尊重して描いているんだ。だから、彼女がナレーションをして、彼女の視点でカメラが撮影されてもいるんだ」と明かした。
映画は、自然と共存する人間を普遍的な要素のあるファンタジーと織り交ぜながら、独創的な演出をした秀作に仕上がっている。間違いなく、今まで観たことのない映画と言えるだろう。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)