北朝鮮の新たな女性像を映し出す!3か国合作映画、ロッテルダムで上映
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)・イギリス・ベルギー合作で製作され、北朝鮮で撮影された異色の娯楽映画『コムラード・キム・ゴーズ・フライング(英題) / Comrade Kim Goes Flying』が、この程オランダで開催された第42回ロッテルダム国際映画祭で上映された。本作は、これまでもトロントや釜山、平壌の映画祭で上映されており、映画界から熱い注目を浴びている。
本作が描くのは、炭鉱で働くキムが、サーカス団の花形である空中ブランコ乗りを目指すサクセス・ストーリー。平壌サーカス団のハン・ジョンシムがヒロインを演じ、実際に見事なアクロバティックシーンを披露しているのが見どころだ。
本作では、プロパガンダ色は薄く、むしろ色濃く出るのは北朝鮮の新たな女性像だ。主人公のキムは、高所恐怖症にもかかわらず、入団テストで空中ブランコに挑戦し、あえなく失敗。すると、ビル工事の建設現場で働きながら決死の克服を試みるなど、夢のためなら手段を選ばぬ肉食女子ぶりを発揮する。そんなキムの姿に、ロッテルダムでの上映でも、時に会場から笑いが起こっていたほどだ。
監督は、北京在住のイギリス人ニコラス・ボナーとベルギーのアニャ・ダールマンズ、そして北朝鮮のキム・グァンフンの三人。ボナー監督は北朝鮮向けの旅行会社を経営しており、これまでも北朝鮮が出場したサッカーFIFAワールドカップのドキュメンタリー『奇蹟のイレブン/1966年 北朝鮮VSイタリア戦の真実』(2002)などの製作をサポートして来たという。
『コムラード・キム・ゴーズ・フライング(英題)』は、ボナー監督が平壌の映画祭で出会ったダールマンズ監督に制作を持ち掛けて、2006年に企画が始動。一度は、党の思想に触れずに自身の夢だけを追及するヒロインが従来の北朝鮮映画と大きく異なることから脚本を拒否されたそうだが、北朝鮮側のスタッフの協力を経て実現まで漕ぎ着けたという。ボナー監督は「北朝鮮で撮影しましたが、キムのユーモアや逆境に立ち向かう姿は、全ての観客の共感を得るであろうと願っています」とコメントしている。
昨年末に行われたドバイ国際映画祭では、シンガポールの監督が北朝鮮の映画学校と製作現場に密着したドキュメンタリー『ザ・グレート・ノースコリアン・ピクチャー・ショー(英題)/ The Great North Korean Picture Show』を発表した。いずれも日本公開は未定だが、北朝鮮の文化と一般人の素顔を垣間見ることができる貴重な作品といえそうだ。(取材・文:中山治美)