奴隷解放宣言から150年を迎えた記念碑的2作品に見る鬼才&名匠のメッセージを検証
アメリカのリンカーン元大統領がうたい上げた「奴隷解放宣言」から約150年、くしくも同時期に公開される『ジャンゴ 繋がれざる者』『リンカーン』から、クエンティン・タランティーノ、スティーヴン・スピルバーグの両監督が作品に込めたメッセージを検証してみた。
クエンティン・タランティーノ監督の『ジャンゴ 繋がれざる者』は、奴隷の身分から解放され、賞金稼ぎとなったジャンゴの復讐(ふくしゅう)劇。同作は、アメリカの負の歴史ともいえる「奴隷制度」の残虐性を描くために、過去の多様な映画作品からの引用を行っているのが特色だ。
タランティーノ監督が「過去数十年の中でメジャー・スタジオが製作した、わずか2本のエクスプロイテーション・ムービー」(ちなみにもう1本は『ショーガール』)と賛辞を贈るのが、1975年の『マンディンゴ』。奴隷同士の格闘や、脱走した奴隷に対する残酷な仕打ちなど、同作が『ジャンゴ』に与えた影響は計り知れない。さらに理不尽な扱いをする白人に対して、黒人が復讐(ふくしゅう)を果たす描写は1971年『ヤコペッティの 残酷大陸』からの影響が色濃い。「今までの西部劇では、みな奴隷制度の真実を避けてきたから、俺がやることにしたんだ」と語るタランティーノ監督。過去の作品にオマージュをささげながらも、リミッターを振り切った描写は、彼ならではの特色だといえるだろう。
一方、『ジャンゴ 繋がれざる者』に先駆けて全米公開されたスティーヴン・スピルバーグの『リンカーン』は、シンプルかつ力強い物語の語り口が印象的だ。「全ての人間に自由を」という理想を貫くリンカーンが、奴隷制度撤廃を盛り込んだ合衆国憲法修正第13条を議会で可決するために、なりふり構わない政治的駆け引きを繰り広げる。ここで描かれるのは、英雄崇拝に陥ることのないリンカーンの知られざる人間的側面である。
「奴隷制度」をまったく異なるスタイルで描き出した『ジャンゴ 繋がれざる者』と『リンカーン』について「どちらも今、観るべき映画」と語るタランティーノ。くしくも両作が全米公開された2012年は、1862年のリンカーンの奴隷解放宣言から150年という節目の年にあたる。そんな歴史の巡り合わせを感じながら両作を見比べると、きっと楽しさが倍増するはずだ。(取材・文:壬生智裕)
映画『ジャンゴ 繋がれざる者』は全国公開中