デンマークで記録的ヒット!カンヌで絶賛された名優マッツ・ミケルセンに直撃
デンマークで記録的ヒットとなった映画『偽りなき者』の主演を務めた名優マッツ・ミケルセンが、ヒットの理由と共に、数々の監督を魅了してきた名演の秘けつを語った。
離婚、失業を経て幼稚園教師の職を得た中年男が、いわれのない疑惑をかけられて村八分にされる残酷な物語が展開する本作では安易な感動を排し、セリフも多くない。そんな明らかに観る人を選ぶ作品が、なぜ注目を集めたのか? 彼はこう分析する。「スカンジナビアやおそらくアメリカでも昨今、特に関心を集めているテーマが描かれているからだと思う。幼児虐待に対する不安のあまり、プールで自分の息子や子どもたちの写真を撮ることができないというところまで来ているのだから」。社会の理不尽さを絵に描いたような残酷な物語に、誰もが「もしも自分だったら」と、どっぷり感情移入するはずだ。
ヒットのもう一つの要因に、ミケルセンが本作でカンヌ映画祭男優賞を受賞したことが挙げられる。スサンネ・ビア、トマス・ヴィンターベアらデンマークの鬼才とタッグを組んだ重厚なドラマから『007/カジノ・ロワイヤル』といったアクション大作までこなす実力派だ。第85回アカデミー賞で2度目の助演男優賞を受賞したクリストフ・ヴァルツをはじめ、ジャン・デュジャルダン、ショーン・ペンといった名優たちが、いずれもカンヌでの受賞を経てオスカーを獲得していること、さらにミケルセンの主演作『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』が第85回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたことからも、彼がオスカーに近い俳優であることは間違いない。
カンヌで実力が評価されたことをふまえ、彼に「完成度の高い演技とはどのようなものなのか?」と役づくりに対する姿勢を尋ねると、「これは僕の信条だが、俳優が『素晴らしい。うまいね』と言われてしまうようではダメだ。(観客に)そこまで意識させてしまってはいけない。観客がスクリーンにのみ込まれるようにしなければ」と、謙虚かつストイックな信念を吐露。
演技力に加え彼の特筆すべきもう一つの魅力は、大人の男性の色香。脱ぎっぷりが良く『しあわせな孤独』や『シャネル&ストラヴィンスキー』などで大胆な濡れ場を披露し、女性ファンをとりこにしてきた。先ごろ、彼が『羊たちの沈黙』のレクター博士の若かりし日々を演じるテレビシリーズ「ハンニバル(原題) / Hannibal」の放送も決定しただけに、まだまだ快進撃が続きそうだ。(取材・文:石井百合子)
映画『偽りなき者』は、3月16日よりBunkamuraル・シネマほかで公開