小さな町が沈んで行く…アカデミー賞作品賞ノミネート『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』で描くリアリティとファンタジー
今年のアカデミー賞主演女優賞部門で最年少でノミネートされたクヮヴェンジャネ・ウォレスのデビュー映画『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』について、脚本を共同執筆したルーシー・アリバーが語った。
同作は、ルイジアナ州にある“バスタブ”と呼ばれる湿地帯の家で、父親ウィンク(ドワイト・ヘンリー)と暮らす6歳の少女ハッシュパピー(クヮヴェンジャネ・ウォレス)は、ある日ハリケーンで川の水が溢れたために、家が浸水してしまう。さらに衛生環境が悪化したために、バスタブの住民たちは強制的に病院に避難させられてしまう。そこで彼女は、音信不通の母親を捜しに出かけていくが、かつて百獣の王であった伝説の動物「オーロックス」と出会ってしまうというファンタジー要素と現実を融合したドラマ作品。ベン・ザイトリン監督は、本作でアカデミー賞作品賞、監督賞、脚色賞の3部門にノミネートされている。
本作は、もともとルーシーが執筆した舞台劇からインスパイアされた。「実は二つの全く違った企画から生まれたの。一つは、今作のベン・ザイトリン監督とわたしが、舞台をやりたいという話をしていて、それがわたしが書いた舞台劇『ジューシー・アンド・デリシャス』という作品だった。ところが、何か物足りないと思ったわたしたちは、わたしがもう一つ執筆していた『マミー・セズ・アイム・プリティ・オン・ジ・インサイズ』と、この『ジューシー・アンド・デリシャス』に記されている旧約聖書のことや自然の不思議などの要素を合わせて、新たに二人でこの映画の脚本を共同執筆することになったの」と二つの作品から生まれたことを明かした。
主演女優クヮヴェンジャネについて「彼女はとても勇敢で、さらに素晴らしい道徳心も持っていて、そのうえ地球での自分の居場所もわかっているようなずば抜けた女の子なの。それに、女優としての感情移入もしっかりできる。わたしが脚本を執筆していたとき、ハッシュパピーは愛する父親のために、側にいて面倒を見ようとする勇敢で優しい少女だということを念頭に入れていたけれど、クヮヴェンジャネに決まったときは、彼女はそれらを全て備えていると思ったわ。実際の彼女はエネルギーいっぱいの元気な女の子よ」と語った。
撮影現場ルイジアナ州での体験は「今、わたしはニューヨークに住んでいるけれど、もともとは南部の州の出身なの。今作では、釣りができるような港の近くにわたしたちクルーは寝泊まりして、そこでは撮影中以外のときに風景を眺めたり、写真を撮りながら、ローカルの人々とも話していたわ。撮影中にはボートから落ちて水に漬かってしまったこともあった。そのときの写真を母親に送ったら、『そこには何が浮いているかわからないから、気を付けなさい』と言われたこともあったわね(笑)」と語り、さらに現地の人々の助けを得て、本作の製作ができたことも話した。
最後に、彼女は映画内でウエイトレスとして出演していることも明かした。映画は、これまで鑑賞した作品とは全く違った、印象に残る体験をさせてくれることだろう。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)