セレブの細胞を注入!?クローネンバーグ・ジュニアが長編劇映画デビュー作で語る究極のエロチシズム
鬼才デヴィッド・クローネンバーグの息子、ブランドン・クローネンバーグ監督が長編劇映画デビュー作『アンチヴァイラル』を引っ提げて来日し、その舞台裏を語った。
本作は、短編映画で活躍してきたクローネンバーグの初の長編。昨年のカンヌ国際映画祭・ある視点部門に出品され絶賛を浴びるなど、早くも父親譲りの才能を見せつけた彼だが、かつては「映画嫌い」を公言していたという。「小さな頃から、映画が好きでしょ? とか、映画監督になりたいでしょ? と言われ続けてきたから、その反発はあった」と振り返る。しかし、それが理由で好きな道を選ばない手はないと、映画作りを始めたという。
主人公シドは、謎のウイルスに冒された血液によって幻覚などの知覚異常に襲われる。このアイデアは学生時代、インフルエンザに感染して寝込んだことから生まれたという。「もうろうとした意識の中で、誰かの体にあったウイルスが自分の中に入ったことに、ある種の親密さを感じたんだ」と振り返り、そのとき感じた奇妙な感覚を膨らませ、脚本を完成させた経緯を明かす。
本作に登場する人々は、憧れの存在と同化するため、その細胞を自らの体に注入する。ベースにあるのは、セレブ文化のメタファーだという。「セレブというのは、メディアが作り上げた幻想にすぎない。その細胞を自らの体に取り込むのは、セレブの肉体に触れることのできない信奉者の代償行為なんだ」と語る。細胞を注射する姿にエロチシズムを感じるのも、それが性行為を表現しているからだという。
映画の見どころの一つが、クライマックスに登場する奇怪な「細胞マシン」。「形状から構造まで自分で設計し、実際のアンティークな医療機器をベースに美術スタッフと作り上げた」という。肉体と機械を融合させたそのマシンは美しくもグロテスクなデザイン。『ヴィデオドローム』や『ザ・フライ』などの作品で、変貌する肉体を描き世界を席巻したデヴィッド・クローネンバーグのDNAを感じずにはいられない。優れたビジュアルセンスを含め、長編デビュー作で高いポテンシャルを見せつけたブランドン。その研ぎ澄まされた世界観に、誰もが引き込まれることだろう。(取材・文:神武団四郎)
映画『アンチヴァイラル』は、5月25日よりシネマライズほかにて公開