鬼才キム・ギドク監督、韓国映画界への疑問と反発!金獅子賞受賞作を犠牲にした闘いとは?
韓国の鬼才キム・ギドク監督が、新作『嘆きのピエタ』のPRでこのほど、来日した。同作品は昨年のベネチア国際映画祭で金獅子賞に輝き、韓国映画で初めて世界三大映画祭で最高賞を受賞する快挙を成し遂げたが、異端児として韓国映画界とのバトルはいまだ続いているようだ。
まずキム監督に、受賞の反応を尋ねると「多くの韓国人は『仕方ない。(わたしのことを)認めざるを得ない』という雰囲気ですね。依然として、わたしの作品を『嫌いだ』と言う人もいるみたいです。でもドジョウの集団に雷魚を入れるとドジョウが成長するように、人間社会も、異質の存在が成長させると思います」と語る。
学歴社会の韓国でキム監督は、独学で映画作りを学んだ異端児。観客に倫理観を問う過激な作風もさることながら、海外映画祭での高評価をやっかむ声も多いようだ。だがキム監督もまた、巨大化する韓国映画界に疑問を抱き、反発してきた。
『嘆きのピエタ』韓国公開時には、ベネチア受賞効果で60万人の観客を動員していたが、自ら4週間で興行を打ち切った。大作がスクリーンを独占する昨今の傾向に、キム監督は自身の作品を犠牲にして異議を唱えたのだ。
キム監督は「でもメジャー会社はビクともしませんでした。自分が身を引くことで1本でもほかの映画をかけてもらえたらと思っての行動だったのですが残念」と苦笑い。続いて昨今の日本映画界の傾向にも触れ「(自主映画が公開出来る)環境は良いのに、小説や漫画原作ばかりでオリジナル作品が少ないですよね。韓国の方が状況は厳しくとも創意工夫にあふれた作品が多い」と同様に大手映画会社と闘っているであろう日本の監督たちをおもんばかった。
そんな組織と個のはざまで創作活動を行う葛藤をつづったセルフドキュメンタリー映画『アリラン』(2011)発表後、精力的に活動を再開したキム監督は、すでに新作『メビウス』を完成。「『嘆きのピエタ』とはまたひと味違った衝撃作です」とニヤリ。お披露目は今秋の海外映画祭で行われるそうで、「わたしたちの作品は国内で上映してもらえないので、海外映画祭の経験が大切」と今後も変わらぬ姿勢を貫くことを力強く語った。(取材・文:中山治美)
映画『嘆きのピエタ』は6月15日よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開