水谷豊と伊藤蘭、約30年ぶりの共演で見せた自然体の演技
妹尾河童の自伝的小説を映画化した『少年H』では、Hこと肇少年の両親役を実の夫婦である水谷豊・伊藤蘭夫妻が演じ、公開前から話題になっている。約30年ぶりに果たした共演について、二人が語った。
水谷いわく、「一生に一度、あるかないかと思っていた」という共演。伊藤も「一緒に芝居ができるのか?」と一瞬不安がよぎったらしい。ところが実際、現場に入ってみると「不思議なくらい自然体で、安心してできました」(伊藤)、「やはり(相手役の)敏子は蘭さんしかいなかった」(水谷)と誰よりも相性のいい共演相手だったことを認める。
しかも、お互いがまるで自分のことのように演技できたという。特に水谷は「原作と脚本に描かれていることに加えて、(妹尾)河童さんに雑談がてら、いろいろお聞きして、だんだんと気持ちができていったんです。作品の中では、日々、いろいろなことが起こります。それを自分がどう受け止めて、どう思うのか。そういうことの連続でしたから、自分だと思っていました。役柄との差異はありません」と断言。
伊藤もそんな水谷の姿を頼もしく見ていたらしく、「(水谷演じる)盛夫さんは子ども、大人関係なく、その人の考えや意見をそのまま受け入れようとする人。そこが普段の豊さんとすごく重なりました」と明かした。ただし、盛夫は洋服の仕立て屋。さすがに紳士服を手際よく仕立てていくシーンだけには伊藤も「セリフを言いながら、カメラとの段取り通りにタイミングを計りながら、裁断したり、ミシンをかけたり……。大変だなって、後ろで立って見ているわたしの方が緊張しました」。
当の水谷はそんな心配をよそに見事、やってのけてしまう。「練習という練習はほとんどやらず、あんなふうにできるとは自分でも思ってもみなかったです。ミシンだって、踏んだことないですし、普段からそんなに器用なタイプでもない。きっと洋服の神様が降りてきてくださったに違いありません(笑)」。
「奇跡の共演」が生み出したもう一つの「奇跡」。「撮影というのはいつでも、その身をそこに置くしかない状態ですから」という水谷だからこそ果たせた名演だろう。そして、その妻を自然体で演じ切った伊藤の言葉も忘れ難い。水谷について「長年、一緒にいることで、自分では知らず知らずのうちに俳優としての在り方みたいなことが影響されていると思うんです。俳優として本当に尊敬しています」。(取材・文:高山亜紀)
映画『少年H』は8月10日より全国公開