アカデミー賞司会エレン・デジェネレス、再抜てきとアメリカ社会の変化
来年のアカデミー賞授賞式の司会者に、人気トーク番組「エレンの部屋」のエレン・デジェネレスが抜てきされた。日本ではあまりなじみのないエレンだが、アメリカでは1994年から4年にわたり放映されたABCネット系コメディー番組「エレン(原題) / Ellen」で人気を確立したコメディー女優だ。
エレンの知名度が急上昇したのは、自らがレズビアンであることを、番組で公表したときから。当時のアメリカでは、同性愛に対して保守的な態度を示す人々も多く、視聴率が低下の一途をたどった「エレン」はついにキャンセルとなった。しかし、そのつらい時期を経て2003年から始まった「エレンの部屋」が大ヒット。決して人を傷つけて笑いをとることをしない彼女の温かさと、はじけるような明るさが、全米にエレン旋風巻き起こした。
何かにつけ保守的過ぎると評されてきたアカデミー賞は、時代に乗り遅れぬよう、この数年方向転換を試みてきた。エレンも2007年にアカデミー賞授賞式の司会を務めるなど、アメリカ社会では彼女の番組がキャンセルされた当時には想像できなかったような変化が起きている。だが変化というのは一筋縄ではいかない。去年アカデミー賞の司会を務めたセス・マクファーレンの辛口パフォーマンスには批判も多く、アカデミーの困惑が如実に反映されていた。
そのため、エレンが再度アカデミー賞司会者に選ばれたことに、ハリウッド界隈では、安全牌(ぱい)を切った「セーフな選択」という見方が強い。レズビアンでありながらお茶の間で絶大な人気を誇り、社会的にも尊敬されているエレンは、アカデミー賞の指針を安定させる上で最適なチョイスというわけだ。しかし、「白人で美人でお金持ちのエレンが、典型的な同性愛者の代表と思ってもらっては困る」という意見も上がるなど、いまだ懸念の声も聞かれる。
いずれにせよ、アカデミー賞という世界的な映画の祭典の舞台に立つエレンを通じて、同性愛者への理解と思いやりがさらに深まれば、最高ではないか。(ロス取材・文: 明美・トスト / Akemi Tosto)