まさかの人の声!『風立ちぬ』こだわりの効果音はどこから生まれた?
宮崎駿監督は5年ぶりの新作『風立ちぬ』で、スタジオジブリ長編映画としては初めて、SE(サウンドエフェクト)と呼ばれる効果音を人の声で表現することに挑戦しているが、その発想はどこから生まれたのだろうか。本作では、飛行機のプロペラ音、蒸気機関車の蒸気、車のエンジン音、関東大震災の地響きなど、劇中のさまざまな音が人の声で再現されている。
このような効果音を採用するのは、スタジオジブリ長編映画としてはこれが初となるが、実は宮崎監督が最初に試みたのは、2006年から三鷹の森ジブリ美術館で上映開始された短編アニメーション『やどさがし』でのこと。当時、宮崎監督はさまざまな音が組み合わさって成る複雑な効果音を人に伝えることの難しさを同作のパンフレットの中で語っている。例えば、『風の谷のナウシカ』で王蟲(オーム)の幼虫が動くシーン。宮崎監督の頭の中では、足のたくさんある幼虫が動くときの「シャカシャカ」「ザワザワ」という足音と同時に、「ピキッピキッ」という鳴き声とも固い殻がぶつかる音ともとれる音が混じっていた。
ところが、宮崎監督はそれを人に「枯れ木を擦り合わせる音と、細かい木や骨やエビの殻のようなものが折れたり砕けたりする音が重なりながら続いて……」と説明するもうまく伝わらず、そのうちに自分自身も何が何だかわからなくなってしまったという。そこで、「子どもの頃はほとんどみんな絵を描きながら自分で声を出して、音楽も効果音もセリフも全部やっていたりするのだから、いっそ全部人の声でやったらどうなんだろう」と人の声による効果音を試みたことを明かしている。
また、鈴木敏夫プロデューサーによると、『風の谷のナウシカ』以降、細かいところにまで本物の音を付けようと次第にエスカレートしていったことに対し、それが本当に正しいのだろうかと疑問に思っていた宮崎監督は、今作『風立ちぬ』の制作に際し、「確かにゼロ戦の爆音はいくつか残っているだろう。だからといって、それを使うことにどんな意味があるんだろう」と持論を展開。最終的に「本物の音かどうかではなく、らしく聞こえることが大事」という結論に至ったという。そして、こうした宮崎監督のクリエイターとしての考えと、『やどさがし』のときに生まれた少年のような発想が混じり合い、本作の効果音につながったというわけだ。
映画『風立ちぬ』は、ゼロ戦の設計者・堀越二郎と文学者の堀辰雄という2人の実在した人物をモデルに、「美しい飛行機を作りたい」という夢に向かって真っすぐに生きた一人の青年の姿を描いた作品。主人公・二郎の声を務める『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズの庵野秀明監督をはじめ、瀧本美織、西島秀俊、西村雅彦、志田未来、大竹しのぶ、野村萬斎ら豪華声優陣も話題だが、宮崎監督がこだわりを見せた“効果音の声”にも注目してみてはいかがだろうか。(編集部・中山雄一朗)
映画『風立ちぬ』は公開中