狂気が生み出すリアル……名優・柄本明が語る、李相日監督の妥協なき演出とは?
クリント・イーストウッドが監督と主演を務め、アカデミー賞作品賞などに輝いた同名作を日本映画として再生させた李相日監督最新作『許されざる者』に出演している柄本明が、極寒の北海道で行われた撮影の日々を振り返った。
柄本にとって、李監督と組むのは映画『スクラップ・ヘブン』『悪人』に続き、本作が3作目。現場の様子を聞くと「李監督は、何かが見えてくるまで、粘り続ける人ですから。相変わらずでしたね」とニヤリ。撮影は「極端に言えば、狂気の世界」と表現する。
柄本は、李監督をはじめ、スタッフたちの情熱は、北海道・上川町に作られた巨大なセットを初めて訪れたときから感じていたという。「妥協しない李監督のことだから、きっとロケハンも大変だったと思うんです。セットを見たときに、美術スタッフはもちろん、皆さんの意気込みを感じましたね」。
柄本が演じる馬場金吾は、オリジナル版ではモーガン・フリーマンが演じた物語のカギを握る人物。佐藤浩市ふんする警察署長の大石一蔵に捕まって拷問を受けるシーンは、渡辺謙演じる刀を捨てた元幕府軍の残党である主人公、釜田十兵衛の「殺意」を呼び覚ますこととなる場面。李監督から佐藤へは「本気で殴ってほしい」という要求があり、柄本が宙づりにされるカットでは殺陣師が緩めに縛った縄を「足が地面から少し浮いてしまうぐらい、宙づりにされないと役者も気分が出ない」という柄本自身の意向も酌んで、きつく縛り直して撮影を敢行した。
長時間かけて撮影した拷問シーンは結局カットされたそうだが、柄本は「たとえカットされたとしても、何かが必ず残るのが映画だと思う」と断言する。「スクリーンに映るのは役者だけだけど、スタッフの努力もにじみ出るのが映画なんです」と話す柄本の表情には、作品への愛情があふれていた。全編にわたって痛切なリアルを描き出した作り手たちの狂気をスクリーンから感じてもらいたい。(編集部・森田真帆)
映画『許されざる者』は9月13日より全国公開