人の記憶はのぞき込むことができる!?オスカー監督ダニー・ボイルを魅了した催眠療法の世界
最新作『トランス』で、なくした記憶を催眠療法で取り戻そうとする主人公を描いたダニー・ボイル監督が、催眠療法の驚異的な効果について語った。
『スラムドッグ$ミリオネア』がアカデミー賞8冠に輝いたダニー・ボイル監督の最新作は、オークション会場で名画を強奪した競売人サイモン(ジェームズ・マカヴォイ)が、頭を強打して絵画の隠し場所を思い出せなくなったところから始まる。彼は催眠療法士エリザベス(ロザリオ・ドーソン)の協力で記憶を取り戻そうとするのだが、次第に記憶と現実との境界線が曖昧(あいまい)になり、想像を絶する結末へと突き進んでいく。
この予測不可能な物語をリアルに構築するべく、ボイル監督ら製作スタッフはユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの臨床心理士デヴィッド・オークリー教授を映画のコンサルタントとして迎え、催眠療法について徹底的にリサーチしたそうだ。オークリー教授は、「現代では、催眠療法がどのように神経組織に作用するかは、MRIによる脳スキャンで確認できる」と語る。そして「催眠療法では記憶をパッケージのようなものと考えているので、安全なやり方なら中を開けてのぞくことができるのです」と続ける。実際に劇中には、サイモンが催眠療法により記憶を取り戻そうとする過程で小包が届けられ、開けようと画策するシーンが登場する。また、その小包の中にはiPadがありファイルを再生しようと奮闘するシーンもあり、「記憶のパッケージ」という考え方にボイル監督流の現代風アレンジが加わっているところも興味深い。
また、記憶を探るのに催眠療法を利用したストーリーが展開していく本作で、主人公サイモンが催眠に極端にかかりやすい人物設定となっているのだが、実際にサイモンのように自らの経験を通して催眠療法に強く反応する人というのは5%ほど存在しているという。「この作品はフィクションだが、臨床上は可能なものであり、非常に暗示にかかりやすい5%の人々にとっては、かなり怖い話だよ!」とボイル監督が語るように、映画の世界だけの話と割り切っては観られないリアルさが作品の中に生きているのも徹底的なリサーチの賜物(たまもの)といえるだろう。
観る者を記憶のラビリンスへと誘い、強烈な高揚感と陶酔感を与え、最後には最高のカタルシスをもたらすボイル監督の独創的なサスペンスで、催眠療法の驚くべき効果を体感してみてほしい。(斉藤由紀子)
映画『トランス』は10月11日よりTOHOシネマズシャンテ、シネマカリテほかにて全国公開