スティーヴ・クーガンが明かすオスカー候補の話題作『あなたを抱きしめる日まで』とは?
英国の演技派俳優スティーヴ・クーガンが、脚本/主演に挑戦したオスカー候補の話題作『あなたを抱きしめる日まで』について語った。
本作は、18歳で未婚の母となり、親から強制的に修道院に入れられ、幼い息子と引き離されてしまった女性フィロメナ(ジュディ・デンチ)が、50年後に息子を捜すために、ジャーナリストのマーティン(スティーヴ・クーガン)の助けを借りながら、息子が居るとされるアメリカに向かうというもの。マーティン・シックススミスの原作「The Lost Child of Philomena Lee」を映画『クィーン』の監督スティーヴン・フリアーズが映画化。
原作の脚色について「最初に原作を読んだ時は面白い箇所がなかったため、多少のユーモアを加えて、この悲しい作品を、観客が最後まで鑑賞するのに耐えられるようにしたかった。脚本は、マーティンの原作のわずかな部分を使用し、ほとんどはマーティンとフィロメナとのインタビューによって構成した。なぜなら原作には行方のわからない息子を捜す過程が記されていて、息子が行方のわからなかった間、何をしていたのか(映画のように)描かれていなかったからだ」と答えた。
リサーチの内容について「映画『マグダレンの祈り』を観るまで、アイルランドのランドリー(婚外交渉した女性を収容した場所)を知らなかった。実は、僕の叔母も1960年代に英国でこのような場所に入っていたんだ。当時は婚外交渉は恥ずかしいとされ、ランドリーで隠れながら婚外交渉の子どもを産むことは社会問題だった。今考えるとおかしな話だが、当時はそれが現実だった。その頃僕は7、8歳で、そんな叔母が居ることが恥ずかしいと思っていた。そんな経験から、ほとんどのリサーチは、この映画の舞台でもあるアイルランドのランドリーを取材した」と明かした。
ジュディ・デンチとの共演について「脚本を執筆後に彼女の家を訪れて、加齢黄斑変性で視力が低下した彼女のために大声を出して脚本を読んだよ。そして、脚本も彼女が読めるようにアルファベットの文字を大きくプリントした。彼女もそんな困難を乗り越えて演じてくれた。当然、彼女も他の俳優と同じように(演技上で)苦悩する時もあった。彼女は素晴らしいが、彼女もまた生身の人間だよ」と彼女との共演を喜んだ。
映画は、現実に起きた出来事であることに驚かされると同時に、ジュディ・デンチの抑揚のある演技に圧倒される作品に仕上がっている。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)