1泊の宿泊費は家賃の約5倍!3畳間で暮らす監督驚がくの映画祭
第10回ドバイ国際映画祭
アラブ首長国連邦で開催されている第10回ドバイ国際映画祭のアジアアフリカ・ドキュメンタリー部門で映画『祭の馬』が上映され、松林要樹監督が現地入りした。同映画祭は豪華なことでも知られており、松林監督の宿泊ホテルは1泊約8万円。東京ではわずか3畳間に暮らしている松林監督は「居心地が悪い」と不慣れな環境に戸惑った。
映画祭はドバイ屈指のリゾートエリアであるマディナ・ジュメイラで行われ、松林監督ら映画祭ゲストはその中でも最も高級な「ダル アル マシャフ」に宿泊。全室ヴィラ形式で各部屋60平方メートル以上あり、各棟には専用の執事も常駐している。
今はオフシーズンのため1泊約8万円とまだお得らしいが、家賃1万7,000円の部屋に暮らす松林監督にとっては家賃約5倍もの金額で、部屋の広さは約12倍にもなるという。松林監督は「浴室だけでも家の3倍はある。1週間の滞在で3年間分近い家賃が払えると思うと複雑です」とぼやいた。
浮かれてはいられない事情は他にもある。ドキュメンタリー映画『祭の馬』は、福島第一原発事故時、半径20キロメートル圏内に取り残された馬のその後を追っているが、松林監督は行政から撮影禁止の通達が出ていたエリアにも、事故当初から現地入りしていた地元の人々の好意でカメラを向けている。
特定秘密保護法が成立した今、こうした松林監督の取材方法は刑罰の対象になる可能性もある。それだけにドバイ入りする直前まで松林監督は、国会前で行われた反対デモに参加。ドバイ滞在中の部屋の片隅にも、その空間に似つかわしくない「あなたの行動で秘密保護法ぜったい破棄」と書かれたビラが転がっていた。
「僕の取材方法ではドキュメンタリーを作るのは難しくなるかもしれません。今後、どうしようかと考えてしまいます」と胸の内を明かす松林監督。それでも映画『祭の馬』の上映には、ドバイではなかなか報道されることのない福島の今を知ろうと多くの観客が足を運んだ。松林監督は「世界最高賞金額といわれる競馬のドバイワールドカップが開催される町だけに、皆さん馬に興味を抱いて来てくれたようです」と笑顔を見せた。
孤独な闘いを続けるドキュメンタリストにとって、海外でもこうして関心を示してくれる観客の存在は大きな力になるに違いない。(取材・文:中山治美)
第10回ドバイ国際映画祭は現地時間12月14日まで開催
映画『祭の馬』は12月14日よりシアター・イメージフォーラムにて公開 全国順次公開