『別離』でオスカーを受賞したアスガー・ファルハディ監督が語る新作とは?
映画『別離』でアカデミー賞外国語映画賞を獲得したアスガー・ファルハディ監督が、新作『ある過去の行方 / The Past(英題)』について語った。
同作は、フランス人の妻マリ(ベレニス・ベジョ)と別れて4年、今はテヘランに住むアフマド(アリ・モサファ)が、正式な離婚手続きをとるためパリに戻ってくるが、すでに恋人サミール(タハール・ラヒム)と彼の息子と暮らしていたマリと、娘リュシーの対立を知り、その原因を探るうちに複雑な問題の存在を理解するというもの。ベレニス・ベジョは、カンヌ国際映画祭で女優賞を獲得している。
イランを離れて撮影したのは「今作のフランスでの撮影は、イラン映画の検閲を気にしたからではない。むしろ、そんな検閲や限定された中で、映画を製作することを好んでいたくらいだ。なぜなら、検閲に対して戦うことや抵抗することが(イラン映画には)重要だと思っているからだ。だから、検閲から逃げる形で他国で撮影はしたくない。この映画は、イランから離れた海外でストーリーが展開されるため、国外で撮影することになっただけだ」と答えた。
今作に、個人的な体験が含まれているのか、との質問に「10年前にある友人が話してくれたことを覚えていたんだ。友人は、今から他国に住む妻と正式に離婚してくると語っていた。彼らは別れる2年前まで一緒に暮らしていた。僕は、長年結婚していた彼らが2年間別れて暮らして、また一つ屋根の下で再会することが不思議な状況に思えたんだ。実は、このストーリーは『別離』の前に念頭にあったが、イランの国外の設定であるため製作が無理だと思っていたが、『別離』の成功で製作への気持ちが抑えきれなくなった」と長い間企画していたことを明かした。
ベレニス・ベジョのキャスティングは「僕はコメディーを演じられる俳優は、どんな役柄でもできると思っていて、もともとコメディー俳優を高く評価している。彼女の出演作 『アーティスト』での演技を観て、とてもスマートな女性だと思った。それは、一目で彼女が過去のサイレント時代の作品をよくリサーチしているのがわかったからだ。僕はリサーチをしっかりする女優が好きなんだ」と述べた。
映画は、過去の過ちがさまざまな連鎖反応を起こしていく過程を、アスガー監督が見事に演技派俳優を使って演出している。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)