監督が実際にアナーキスト集団に潜入して製作した映画『ザ・イースト』とは?
昨年のサンダンス映画祭で話題になった新作『ザ・イースト』について、ザル・バトマングリッジ監督が語った。
同作のストーリーは、環境汚染をもたらす企業に対して抗議活動を行うアナーキスト集団イーストに、元FBIのサラ(ブリット・マーリング)が企業から依頼されて潜入するが、人体への被害を目の当たりにしてイーストの思想を理解するだけでなく、リーダー的存在のベンジー(アレキサンダー・スカルスガルド)にも惹かれ始めるというもの。バトマングリッジは監督のほか、脚本も共同執筆している。
製作する上でアナーキストたちと接触し、共に生活もしたそうだ。「実は、この前に製作した『サウンド・オブ・マイ・ヴォイス(原題) / Sound of My Voice』が資金が集まらずなかなか製作できなかったことでイライラしお金もなかった時期に、金の掛からない形でアメリカのアンダーワールドを探索することになった。実際には資本主義から離れたアナーキストたちは、自分たちで作った農場や、人々が捨てた物で生活していた。菓子パンなども捨てられていて、そういう残された物を食べる人たちを見て、これまで自分が持っていた価値観が全く変わった」と言う。
スリラーになった経緯については「1970年代の作品に影響を受け、スリラーを執筆したいと思っていた。例えば『大統領の陰謀』『コールガール』のような、全く先が予想できない作品を作りたかった。ただ、このアナーキストの体験が忘れられず、そのためスリラーとアナーキストを交錯させて描くことにした」と明かした。
多くのアナーキストはできる限りリーダーを作らない形態を望むが、その形態を現代社会に当てはめられるのか。「今作でもアナーキスト集団イーストは、リーダーを作らないようにしている。だからリーダー的存在のベンジーに対してメンバーが議論を交わすことも多い。それはある意味、サーカス集団みたいなもので、サーカスには団長は居るが、アクロバットをしている人たちと仕事上では立場があまり変わらず、あらゆる場所を点々として仕事をする。どんな仕事でも、その差が無い状態で居るのは、現代社会においても良いことだと思っている」と答えた。
映画は、環境汚染を続ける巨大企業に対抗するアナーキストが理にかなった人間的なアプローチで描かれ、説教くさくない演出が見どころの作品になっている。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)