名匠マーティン・スコセッシに訪れた苦難の日々…スタジオとの決別を明かす
最新作『ウルフ・オブ・ウォールストリート』で現役最多となる8度目のアカデミー賞監督賞ノミネートを記録した名匠マーティン・スコセッシ監督が、同作に込めたメッセージについて熱弁を振るった。実在の株式ブローカーの回想録に着想を得た本作だが、そこにはスコセッシ自身の怒りが色濃く反映されているのだという。
本作は、若くして億万長者に上り詰めた青年が、金と女、そして欲に溺れていくさまを描いた狂乱のドラマ。スコセッシ監督がレオナルド・ディカプリオと5度目のタッグを組みつつも、これまでとはがらりとカラーを変えたことで話題になった。例えば、スコセッシに悲願のアカデミー賞をもたらしたディカプリオとの3度目のタッグ作『ディパーテッド』は緊迫した心理戦とアクションが見どころだったが、本作はスラップスティック色が強くなっている。
そのことを尋ねられると、スコセッシは思わずという様子で顔をしかめた。「『ディパーテッド』の後、スタジオと衝突したんだよ。僕は『ディパーテッド』とは全く違うものをやりたかったのに、スタジオは続編的な作品を求めていた。はっきり言って、落胆した。結局のところ、僕とレオの名前がついていれば、どんな映画でもいいというのが透けて見えていたからね。それで僕は『もう、ここと映画を作ることはできない』と見切りを付けたんだ」と当時の内幕を告白した。
スタジオと訣別したことで資金繰りに苦しみ、本作の企画は凍結せざるを得なくなった。怒りをにじませながら、スコセッシは「僕が若かった頃、1950年代くらいまでは、アメリカで貴ばれていたのは何よりも自由であり、自由を獲得できるチャンスだった。でも、いつしかそれは『金持ちになる』という資本主義の価値観に置き換えられていったんだ。そして、それは今や映画の製作現場をも支配するようになった」と指摘する。
そして、そうした価値観に対するアンチテーゼとして、スコセッシは本作に取り掛かった。本作の主人公は、資本主義の価値観に支配された、金を稼ぐために金を稼ぐ青年。「若い人にとって危険なことだと思うよ。まるでジャンクフードみたいに浅薄な価値観だからね」と切って捨てたスコセッシは「だから、この映画は、そういう価値観に対する怒りがぶちまけられているといえるかもしれない。そして、伝えるべきメッセージがあるからこそ、僕は映画を作るんだ。ボックスオフィスで成功するためやアカデミー賞を受賞するためではなくてね」と力強く語った。(編集部・福田麗)
映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』は1月31日より新宿ピカデリーほかにて全国公開