日本映画界の新星は元新体操の国体選手!監督デビューまでの道のりを語る
第64回ベルリン国際映画祭で長編映画初監督作にして国際批評家連盟賞受賞という快挙を成し遂げた『FORMA』の坂本あゆみ監督が、監督デビューまでの道のりを語った。本作は、綾子と由香里という2人の女性の再会が思いがけない展開を生むさまを描いたサスペンス。主人公・綾子を演じる梅野渚は『ソーローなんてくだらない』で英レインダンス映画祭にも参加している実力派だ。
『FORMA』では加害者と被害者の立場が、時間の経過や観る人によって入れ替わる。後半、綾子の仕掛けた隠しカメラによる映像がそのまま流れる場面について坂本監督は「当人たちには切実でも、綾子と由香里が争っているのは観る方にとっては滑稽でもあります。でも、それを面白がってしまう観客が怖いとわたしは思っていて、(このシーンでは)それを提示しているつもりです」と明かした。観客までも映画に組み込んでしまうという恐るべき作品だ。
坂本監督はベルリン映画祭のプレミアでは作家の安部公房に言及するなど文系のようだが、理系といえる照明技師だった時期もある。何系なのかと問うと「体育会系です」と即答。新体操で国体に出たこともあるという驚きの事実を明かした。しかし、その一方でマザー・テレサに憧れ、そうはなれない俗な自分に苦しむという一面もあり、その孤独感を創作で昇華したいと願っていたときに『鍵』というイラン映画に出会った。「少年が部屋の中で鍵を捜すだけなのに素晴らしい。自分の固定観念がひっくり返る衝撃を受け、小さなことが豊かなことだと知らされた映画でした」。そして映画監督を目指すことになる。
高校卒業後に熊本から上京し、日本大学芸術学部を受験するも不合格。1人古いカメラを持って夜の線路で撮影に励むなどしていた坂本監督が、CM撮影スタジオでのアルバイト中に出会ったのが後に映画監督となる吉田恵輔だった。「わたしは20歳くらいで、何も知らないのに初めてのプロの撮影でとにかく張り切って、走り回ってメモしていました」という坂本監督は、当時、CMのほかに塚本晋也監督の下でも照明を担当していた吉田監督に面白がられ、「塚本組に来ない?」と声を掛けてもらったことで現在に至る。
それでも18歳で上京してから14年、映像でやっていけるようになったのはここ最近のこと。「お金は全然なかったですね。友達の家を転々としたり、寝袋持って現場に行ったり。でも、カメラを持って夜中に1人で線路に行ったことを思えば苦にならなかったです」。いわば、長い下積みを経た、たたき上げ監督だが、「わたしの場合は、この年齢でこういうふうになったことがベストだったと思います」とここまでの全てが無駄ではなかったと言い切った。(取材・文:山口ゆかり / Yukari Yamaguchi)