自殺への怒りと肯定…命を絶った若きミュージシャンの半生から監督が語る
「映画を完成させてね、できればハッピーエンドで」という遺言を残し、27歳の若さで自らの命を絶ったミュージシャン・増田壮太さんの半生を鮮烈に映し出すドキュメンタリー映画『わたしたちに許された特別な時間の終わり』の記者会見が24日、都内・日本外国特派員協会で行われ、太田信吾監督が出席した。
山形国際ドキュメンタリー映画祭2013アジア千波万波部門に正式出品された本作は、音楽的才能を認められながらも夢半ばで自殺したミュージシャン・増田壮太さんと、彼に憧れながらも別の世界へ進んだ元バンド仲間・冨永蔵人さんの生きざまを追い掛けた衝撃のドキュメンタリー。二人の友人であり俳優としても活躍する太田監督が、増田さんの遺言と真摯(しんし)に向き合い、ときにはフィクション映像も織り交ぜながら、表現とは何か、自由とは何かを模索する。
印象的なタイトルについて太田監督は、「チェルフィッチュという劇団を主宰する岡田利規さんの同名小説集をそのままタイトルに引用した。モラトリアム世代の若者たちがつらい日常の中でも自由を探して生きていこうとする意志が感じられる小説で、今回の映画に通じるものがあった。僕たちが過ごしてきた時間は、『自殺』という行為で全てが台無しにはならない、肯定できる特別な時間もたくさんあったという思いを込めて……」と述懐。
また、「増田さんの遺言がなかったら映画は完成していなかったか」という質問に対して太田監督は、「僕たちは映画を完成させるつもりでいたが、彼が自殺してしまったことでご遺族の考えなども大切にしなければならなくなった。ただ、彼の遺書があったことでご遺族が理解を示してくださったという意味では、そう言えるかもしれない」と振り返った。
一方、フィクションの場面で、突発的に自殺した女性に対する執拗(しつよう)な暴力描写が理解できないという否定的な意見に対して太田監督は、「彼は一時的な思い込みではなく、考えがあって自殺を計画的に行ったということが徐々にわかってきた。だから、自殺してしまった自分への怒りとともに、一時の思い込みで死を選択してしまった人への怒り、彼らを死に追いやってしまった僕たちへの怒り、いろいろな『怒り』が暴力描写につながった」と意図を説明した。(取材:坂田正樹)
映画『わたしたちに許された特別な時間の終わり』は8月16日よりポレポレ東中野ほか全国順次公開