手描き映画看板この道37年!3時間で完成する驚異の職人技
日本映画の黄金期に活躍し、わずか15年の映画人生の中で『眠狂四郎』シリーズなど159作品に出演し、37歳の若さでこの世を去った映画スター市川雷蔵さん。その映画デビュー60周年を記念した映画祭「雷蔵祭 初恋」が8月9日より角川シネマ新宿ほかで開催される。これに伴い、角川シネマ新宿の劇場に懐かしの“手描き映画看板”が掲出されることが決まり、制作中の手描き看板職人・北原邦明さんに話を聞いた。
なかなか見られません!手描き映画看板が完成するまで……フォトギャラリー
看板制作会社・株式会社柏工芸に勤める北原さんは、看板一筋でこの道37年のキャリアを誇るベテラン。既に閉館した銀座シネパトスや上野東急を中心に手描き映画看板を手掛け、全盛期には年間約130本の作品を制作。これまでに世に送り出してきた看板はおよそ2,000作品だという。その中には『ライフ・イズ・ビューティフル』や『ハリー・ポッター』シリーズなど、映画ファンなら一度は観たことのある作品がズラリと並ぶ。
仕事のモットーは「早く良く」。新聞紙よりも薄いざら紙に使用する写真をプロジェクターで投射・トレースする作業から始まり、色を入れて絵が完成するまで2~3時間。そこから一度乾燥させたざら紙を板に貼り付け、字入れ職人がタイトルやクレジット等を入れて看板は完成する。ニスは塗らない。看板は大体1か月、上映作品によっては短いもので2週間ほどで入れ替わるためだ。手間暇かけて制作した作品がわずかな期間で役目を終えることもあるが、北原さんは「せっかく(描いたから)っていう感覚はないですね」と話す。
昭和の映画館では当たり前のように掲げられていた手描き映画看板もシネコンの登場やインクジェットプリンターの普及によりすっかり姿を消してしまった。現在北原さんに弟子はおらず、「取る状態ではないです。絵を描く仕事がないから、弟子も何もないですよ」と話す。これまで手掛けた作品の中で一番のお気に入りは「よく聞かれるんですけど、こういうのっていうのはないんです」と頭をかきつつ、「仕事でやってきているからだけど、絵が出来たときに満足するっていうかね。インクジェットだったら誰でもできるから、自己満足になるかもしれないけど」とその魅力を語った。
今回の手描き映画看板は、配給を務める株式会社KADOKAWAのスタッフが、昔ならではの魅力を劇場を訪れたファンに感じてもらいたいという熱い思いから実現。「手描きならではの味があるのを若い人にも知ってもらいたいし、見た人が写真じゃないとわかるようにしたかった」とあえて手描きとわかるタッチを北原さんにお願いしたという。手描き映画看板は角川シネマにて8月2日より掲示される予定。映画と共に手描き映画看板の迫力と温もりも楽しむこともできるだろう。(中村好伸)
「雷蔵祭 初恋」は8月9日から9月19日まで角川シネマ新宿ほか全国順次公開
手描き映画看板は8月2日から9月5日まで角川シネマにて掲出予定