ジブリ米林監督『アリエッティ』に秘めた思い&『マーニー』での新たな試みを明かす
映画『思い出のマーニー』の米林宏昌監督が、“宮崎駿”という存在について語った。米林監督は『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』『崖の上のポニョ』といった宮崎監督作品で原画を手掛けてきたジブリ生え抜きのアニメーターで、監督デビュー作も宮崎監督が企画・脚本を務めた『借りぐらしのアリエッティ』(2010)だった。
ずばり宮崎監督とはどういう存在なのか? との質問に「巨人です」と笑う米林監督。それだけに、古い家の台所の下に住み、暮らしに必要なものは全て床の上の人間から借りてくる小人たちの姿を描いた『借りぐらしのアリエッティ』は小人たちに自分自身を重ね合わせて制作したといい、「床上の住人たちは先代の巨人たちで、そういう人たちからいろいろな物=表現方法を借りているんだっていう意識でしたね」と打ち明ける。
「でも物語の最後には小人たちは床下から出て行って、朝日に向かって川を下っていくじゃないですか。そういうふうにして出て行ったからには『もう戻れない』という思いはありました」。そうして『アリエッティ』と共にスタートを切った米林監督の監督2作目である『思い出のマーニー』が、高畑勲・宮崎駿の両巨頭が一切関わっていないジブリ初の長編アニメーション映画となったのは偶然ではないだろう。
しかし、イギリスの児童文学「思い出のマーニー」は宮崎監督にとっても思い入れの深い作品で、ある時点までは米林監督の元に「こういう絵はどうだろう」とちょくちょくイメージ画を持ってきていたという。米林監督は「そこで一度、スタッフを会議室に集めて『宮崎さんに話をしてもらおう』という機会を作ったんです」と振り返る。
映画化するにあたって舞台を日本に移すことは早い段階から決まっており、米林監督は、孤独な主人公の心を映した「真珠色の空」、そして湿地がある北海道の道東がいいのではないかと考えていたが、宮崎監督の持つイメージは違っていた。「宮崎さんがアドバイスとして『この物語の舞台は瀬戸内である』とホワイトボードに描いてみてくれたんです。しかし、それは僕らが描いていたイメージと違っていて。その後みんなで再度検討して『やはり北海道に戻そうということになりました」。
そしてすぐに北海道へロケハンに飛び、そのイメージを基に描かれた薄曇りの空は本作を、青空が多かったこれまでのジブリ作品とは異なる趣にした。米林監督は「空の色が変わると全部の色が変わるんですよね。キャラクターもこれまでの作品のようにはっきりとした感じではなくて、もっと背景になじむような穏やかな色彩になるんです。何か今までにない雰囲気の作品になったんじゃないかなと、そこはうまくいったんじゃないかなと思っています」と控えめながらも、宮崎監督からの“借り物”ではない自らの表現で描いた『マーニー』に自信をのぞかせていた。(編集部・市川遥)
映画『思い出のマーニー』は公開中