「三谷流」時代劇が幅広い世代に受け入れられるワケとは?
ヒットしないといわれて久しい時代劇において、昨年公開された時代劇映画『清須会議』は大ヒット、大河ドラマ「新撰組!」は高視聴率をマークするなど、三谷幸喜の時代劇はなぜヒットするのか、あらためて検証してみた。
まず、映画『清須会議』においては「清須会議」という非常にマニアックな題材を取り上げていることに三谷らしさが見られる。織田信長が本能寺で襲撃されたあと、亡き信長の後継者を決めるための会議の場。自らが推す候補が織田家の後継に選ばれるよう、武士たちがあの手この手を使って政治的な駆け引きを繰り広げるのだが、戦国時代にもかかわらず、殺陣のシーンはほとんどない。代わりに時代を超えた人々にも共通する、上下関係や色恋に翻弄(ほんろう)される人間模様が軽妙に描かれている。「時代劇だから」と身構えずに観ることができる題材、自他共に認める歴史通の三谷だからこそ選べたテーマといえるだろう。
また、三谷が得意とする「当て書き」によるキャラクター作りは、時代劇でも力を発揮している。『清須会議』では、むさくるしいひげ面の豪傑・柴田勝家に役所広司を配し、よく言えば熱血漢、悪く言えば粗野という勝家のキャラクターを強調。陽気ながら権謀術数にたけた羽柴秀吉も、明るいキャラクターが印象的な大泉洋を配役することでずる賢いが憎めない人物像を作り上げた。もちろん、織田信長の肖像画にそっくりの篠井英介や、土方歳三の写真に似ているという理由で配役された「新撰組!」の山本耕史など外見も一役買ってはいるが、演じる俳優のキャラクターを生かして、戦国武将の一人一人を深く掘り下げることで、武将たちがなんとも滑稽で人間味にあふれた人物になっていくのだろう。歴史の教科書で学んだ名前だけの人物が、愛すべきキャラクターになることで、親近感すら抱かせ、感情移入もしやすくなる。
そして、これらの要素は三谷作品ならではのエンターテインメント性として現代劇と変わらない「笑い」を時代劇の中にも生かしてくれている。「三谷流」時代劇は、歴史へのこだわりが誰よりも強い三谷が、豪華で喜劇センスあふれる彼らしいエンターテインメントとして仕上げてきたところが魅力であり、だからこそヒットしているのだろう。(文・岩永めぐみ)
「三谷喜劇の日」は9月7日(日)【WOWOWプライム】にて放送