塚本晋也『野火』にスタンディングオベーション&大歓声!
第71回ベネチア国際映画祭
現地時間2日、第71回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品されている映画『野火』の公式上映が行われ、本作で監督のほか脚本、主演も務めた塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也、新人俳優の森優作、作曲家の石川忠らが出席した。
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大岡昇平の同名戦争文学の映画化作品。第2次世界大戦末期、フィリピンに攻め込んだ日本兵が極限状態の中で次第に追い詰められていく姿を、塚本監督ならではのすさまじい描写と音楽で描いた唯一無二の戦争映画だ。上映が終わると、満員の場内からはスタンディングオベーションと大歓声がわき起った。
「戦争の痛みを忘れてしまった日本が次第に戦争に向かっている中で、より多くの方々に観てほしい」と20年をかけて戦争のリアルな痛みを描き切った塚本監督の思いが世界に届いたといえる瞬間だったが、実は塚本監督はスタンディングオベーションを期待していなかったそう。「僕は拍手とかよりも、もうちょっと観客の皆さんがドーッと疲れて、沈み込むのを期待していたんです。だから割と多くの方々が長い間立ち上がって拍手をしていただいたときは逆に狼狽(ろうばい)してしまいました」とニヤリ。
リリーもまた「この映画は、正直拒絶してしまう方がいるのも当然だと思っていたんです。こういう映画なので、そういう反応があってもそれはいいですし。人が上映中に出ていくのかと思っていたんですが、さほど出て行かなかったのでびっくりしました」と話し、「皆さんが立ち上がって拍手をしていただいて、ベネチアの方々の映画に対する思いを感じることができました。ベネチアの観客は塚本監督に対するリスペクトも理解も、日本の観客よりもしているのかと思うんですが、彼らはこの映画でまた新たな塚本監督を見ることができたのではないでしょうか?」とベネチアの観客に感謝の気持ちを伝えた。
本作に出演したことは俳優にも多大な影響を与えたようで、中村は「今日この映画を観て、改めてこの戦争について知りたいと思いました。イタリアの今の世代の人たちが、あの時代の戦争をどう感じていたのかも知らないので」とコメント。ショッキングな決断をする青年兵を衝撃的に演じ観客を圧倒した森は、「僕はまだ20代で戦争のことを全く知りませんでした。でもこの映画に出て今自分が戦争に行ったらどうなってしまうんだろうということを感じました。若い方々にも観てもらいたいです」と真剣な表情で映画への思いを語った。
同日行われた公式会見の中で「美しい自然が広がっている中で、人間だけが愚かなことをしている姿を描きたかった」と話した塚本監督。真っ青に広がる空と美しい海を背景に、目を背けたくなるような残忍なシーンが次々に出てくる。そして腐った体に次々とわくうじ虫や顔がつぶれて死んでいく兵士たち。痛く、恐ろしく、すさまじい戦争の真実を塚本監督は真正面から捉えて描いた。配給会社などは未定だが、次に控えるのは日本での公開。日本でもより多くの観客に見せるべく、塚本監督は「まだ始まったばかりです。これからまた頑張りたい」と笑顔で応えた。(編集部・森田真帆)
第71回ベネチア国際映画祭は現地時間9月6日まで開催