話題のハリウッド作品は無冠に、記者の反応は? 第71回ベネチア映画祭を振り返る
第71回ベネチア国際映画祭
ロイ・アンダーソン監督の『ア・ピジョン・サット・オン・ア・ブランチ・リフレクティング・オン・イグジステンス(英題) / A Pigeon Sat on a Branch Reflecting on Existence』が最高賞の金獅子賞を受賞し、第71回ベネチア国際映画祭が閉幕した。世界最古の歴史を持つ映画祭で上映された20作品を振り返る。
今年のコンペティション部門は、アルメニア人虐殺の危機から逃れて国を追われた主人公の生きざまを描いたファティ・アキン監督の『ザ・カット(英題) / The Cut』や、イタリアの伝説的アーティスト・パゾリーニの死に迫ったアベル・フェラーラ監督の『パゾリーニ(原題)/ Pasolini』、19世紀の詩人レオパルディの生涯を描いたマリオ・マルトーネ監督の『イル・ジョヴァネ・ファヴォロソ(原題)/ Il GIovane Favoloso』、アルジェリア戦争を背景に二人の男の友情を描いた『ロワン・デ・ゾム(原題)/ Loin Des Hommes』、戦争が生み出す本当の恐怖をすさまじい映像で撮り上げた塚本晋也監督の『野火』など、歴史の裏側にある人間たちのドラマを描いた作品や、貧困から逃れるためにマフィアと関わらざるを得ない若者たちがいるというイタリアの現状を描いた『アニメ・ネーレ(原題) / Anime Nere』、アメリカの経済危機が生み出した不動産問題を辛らつに描いた『ナインティナイン・ホームズ(原題)/ 99Homes』といった現代社会が抱える問題を描いた作品など、社会派の作品が目立った印象だった。
批評家たちの評価による星取表では、前半戦はアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の映画『バードマン(原題)/ Birdman 』と、映画『アクト・オブ・キリング』のジョシュア・オッペンハイマー監督が被害者の立場から前作でテーマにしたインドネシアの虐殺に迫る『ザ・ルック・オブ・サイレンス(原題) / The Look of Silence』の2作品が圧倒的に評価が高かったが、映画祭の後半にアンダーソン監督作品とアンドレイ・コンチャロフスキー監督の『ザ・ポストマンズ・ホワイト・ナイツ(英題) / The Postman's White Nights』が上映されると、下馬評は一気に『ア・ピジョン・サット・オン・ア・ブランチ・リフレクティング・オン・イグジステンス(英題)』へと傾いた。映画祭の開催地であるベネチアのリド島では連日、プレスルームやバーでアンダーソン監督の詩的な世界、コンチャロフスキー監督のアート性を支持する記者と、オープニングで記者たちに衝撃を与えたアレハンドロ・イニャリトゥ監督や、オッペンハイマー監督を支持する記者たちが熱い議論を戦わせていた。
審査委員長を務めたフランス人作曲家のアレクサンドル・デスプラが、「政治的、哲学的、詩的、人間的な作品を選びました」と説明した通り、結果的に受賞した社会派作品はオッペンハイマー監督作品のみ。哲学的な視点からシュールな笑いで描いたショートスケッチ集を作り上げたアンダーソン監督作が金獅子賞、ロシアの小さな漁村の風景を切り取ったコンチャロフスキー監督作が銀獅子賞を受賞した。授賞式で各賞が発表されると、中継を見ていたプレスルームは大歓声に包まれたが、ところどころで、記者たちからブーイングが飛んだ瞬間もあった。
とはいえ映画祭の受賞の行く先は、審査員次第。今度は日本の映画ファンが、あらためて作品を観て自分の評価ができるように、多くの作品が日本で公開されることを期待したい。(編集部・森田真帆)