男性器を切り取る衝撃作の発想の源…キム・ギドクが明かす
韓国映画界の異端児キム・ギドク監督が9月30日、新宿シネマカリテで行われた映画『メビウス』のティーチイン付き特別上映会に出席し、観客からの質問に答えた。
常に賛否両論の渦を巻き起こすギドク監督作の中でも、最も壮絶なヒューマンドラマとされる本作。韓国でも上映が制限され、日本でも紆余(うよ)曲折を経て、ギリギリR18+での公開となったほどの衝撃作だ。夫(チョ・ジェヒョン)の浮気を知り嫉妬に狂った妻(イ・ウヌ)が、夫の性器を切断しようとするもあえなく失敗。怒りの矛先は息子(ソ・ヨンジュ)に向けられ、息子の性器が切断されてしまったことから起きる破滅のドラマを描き出した。
上映後、壮絶な映画体験に圧倒された観客の前に立ったギドク監督が「映画をご覧になって驚かれたのでは? いかがでした?」と問いかけると、会場からは拍手が。ギドク監督はその様子に笑顔を見せだ。
この衝撃的な題材について「わたしが抱えている問題を見つめ直してみようと思った」と切り出したギドク監督は、「わたしも男なので、男性器を持っている。だからこそ(欲望というものは)わたしの問題なのか、それとも男性器の問題なのか葛藤している。それは人間として生まれた以上、避けて通れない問題だと思い、一度描いてみたかった」とコメント。さらに「そこでまず男性器を切ることから始めてみようと思ったわけです。切ることからその答えが見つかるのではないかと思って」とその発想の源を明かした。
観客の1人から「悩みは解決されましたか?」と質問されたギドク監督は、「それは難しいな……」とポツリ。「結局、(映画を作っても)悩みは解決されませんでした。大きな宿題として残ると思う。性に対する欲望から人間は自由になれるのか、解き放たれるのか。きっと宿題を抱えたまま、ずっと解決できないのだろう。でも葛藤や悩みがあるのが人間だと思う」と付け加えた。
そして最後に「わたしの映画は観ていて、つらい気持ち、不愉快な気持ちになったり、痛かったり、悲しい気持ちになったりすると思います。しかし最後に伝えたいのは、人生は楽しいということです。そういった美しさが伝わればうれしいです」と呼び掛けたギドク監督に、観客は大きな拍手を送っていた。(取材・文:壬生智裕)
映画『メビウス』は12月6日より新宿シネマカリテほか全国公開