リチャード・ギアがホームレス役に挑戦 10年前に映画化権取得
現在開催されている第52回ニューヨーク映画祭(N.Y.F.F 52)で、リチャード・ギアが、ホームレス役に挑戦した話題作『タイム・アウト・オブ・マインド(原題) / Time Out of Mind』について語った。
本作は、職に就かず、女に捨てられ、契約の切れたアパートも追い出された男ジョージ(リチャード・ギア)は、死別した妻との間に娘(ジェナ・マローン)が居るものの、疎遠な関係だったためホームレスの生活を選択するが、そこには厳しい現実が待ち受けていたというドラマ。映画『メッセンジャー』でアカデミー賞脚本賞にノミネートされたオーレン・ムーヴァーマンが脚本兼監督を務めた。
まず、今作の企画について「10年前に受け取った脚本は、僕が懸念しているホームレスのことを記したもので、実際にはその脚本は80年代に執筆されたものだが、10年前の設定でも適切な内容だった。しばらくその脚本が頭から離れず、結局その脚本の映画化権を得た。そのとき、どう描いたら良いかある程度ビジョンを持っていたが、実際には製作に至らなかった。だが、映画『アイム・ノット・ゼア』以来の友人だったオーレンと再会し、この脚本を読むように勧めたことが製作のきっかけになった」と明かした。
その後、オリジナルの脚本を変えることになった。「今作はペンネーム“ザ・キャデラック・マン”というホームレスが書いた自叙伝を参考にした。その内容は、学校教育を受けたことのない人が書いたようなものだが、自分の生きる世界でのコミュニケーションが見事に記されていた。しかもその内容は(ホームレスでも)自虐的なものでなく、かなりドライな内容で、それが今作のホームレスの感情に適していると思った」と語る通り、ホームレスのリアルな視点で描かれている。
企画からこの10年間でホームレスへの対応は変化したのか。「今作の脚本執筆当時は、ホームレスへの対応に関する法の施行前だった。後に制定された法で、どのようなサービスがホームレスに提供され、さらにどのように対応するかが決められた。まずホームレスを監視する管理局の設置、次にベッドと食事を提供することにもなった。でもホームレスになるということが、どういうことなのかという内面的な感情と、いかに奈落の底に突き落とされ、すさんだ気持ちになるかは10年前と変わらない」と答えた 。
映画は、ホームレス化していくリチャードの演技が圧巻の作品。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)