塚本晋也監督最新作、ベネチアに続いて釜山へ!「今作らねばならない」使命感を訴える
第19回釜山国際映画祭
第19回釜山国際映画祭アジア映画の窓部門で、塚本晋也監督最新作『野火』が上映され、監督によるティーチインが行われた。
原作は、1959年に市川崑によって映画化されたこともある大岡昇平の同名小説。その市川版との違いについて問われた塚本監督は、「市川崑監督の映画は、主人公の心の中に入っていくような作品でした。それに対して自分の映画では原作で印象の強かった、フィリピンの美しい青い空と深緑の木々、そして真っ赤な花々の中で、人間だけがボロボロになっていくコントラスト、『戦場そのもの』を描いた点が違っていると思います」と答えた。
映画化まで20年間かかった本作の製作意図を、「今、戦争へ向かおうとしている気配を感じて、恐ろしく思うのです。経済的にはまだ作れない状態でしたが、『今作らねばならない』という使命感のようなものが湧いてきたのです」と説明すると、会場から拍手が巻き起こった。
また本作では監督が主演を兼任しており、「本当は有名な俳優さんにお願いしたかったのですが、製作費を考慮した結果、自分でやりました。役柄のためにやせたので、ジャングルでの撮影で大荷物を持ち歩き、演技してモニターチェックして、また撮り直すのは、当然ながら本当に大変で、二度とやりたくないです」と過酷な撮影を振り返った。
原作との違いについては、「よりシンプルに、普通の人が戦場を歩き回っているような映画にしました。不条理の中にある密室劇のような映画になっていると思います。実際の戦場は弾に当たって死ぬ人よりも、空腹で死ぬ人が多かったそうです。動くものは何でも食べ物に見えてきて、自分の体をはうウジ虫を食べたりするうちに、人間も食べ物に見えてくる。そして、ちぎれた足や腕や腐った死体はただのモノになります。そんな恐ろしい戦場には絶対に行きたくないと思えるように描く必要があったのです」と克明に説明し、戦場における過激な描写の必然性を訴えた。
『野火』は、第71回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品され、アジアでの上映は釜山国際映画祭が初となる。(取材・文:芳井塔子)
映画『野火』は、2015年公開予定