自分たちが観たい映画を作る!イスラエルの監督コンビが映画愛を吐露
クエンティン・タランティーノが昨年の第18回釜山国際映画祭で「今年ナンバーワンの映画だ!」と絶賛したことで注目を浴びたイスラエル映画『オオカミは嘘をつく』のアハロン・ケシャレス、ナヴォット・パプシャド監督が9日、渋谷の映画美学校で行われた試写会に出席した。この日は、アートディレクターの高橋ヨシキ、映画監督の高橋洋も来場した。
「イスラエル初のスラッシャー映画」という触れ込みの『ザ・マッドネス 狂乱の森』(2010年)でデビューを果たした両監督。2作目となる本作は、イスラエルの森で起きた少女暴行事件をきっかけに、事件の容疑者、被害者の父、そして事件を調べる刑事の思惑が絡み合い、何が本当の悪なのかさえ見えなくなる壮絶な復讐(ふくしゅう)劇だ。
イスラエル映画といえば、セックスに興味津々な高校生たちの姿を描き、1980年代に世界的な大ヒットを飛ばした『グローイング・アップ』シリーズが有名。しかし同シリーズが終了したあたりから、イスラエルではエンターテインメント作品は影を潜め、涙を誘うような文芸作品が数多く作られるようになった。そしてそんな状況が変わるのは、両監督のデビュー作『ザ・マッドネス』まで待たねばならなかったという。
自身、映画評論家でもあるケシャレス監督は「問題は当時の映画評論家だった」と切り出すと、「彼らが新聞などで酷評キャンペーンを繰り広げたために、優秀な映画監督がアメリカなどに拠点を移してしまった。そこで国に残った映画評論家たちが(ジャン=リュック・)ゴダールや(フランソワ・)トリュフォーのような映画を作り始めたわけだが、それはしょせん模倣にすぎなくて、たいした映画でもなかった。さらに国も、国際映画祭で賞が狙えるような作品にしか助成しなかった。でも本当は、イスラエル国民もポップコーン映画が大好きなんです」とイスラエルの現状について明かした。
好きな監督としてスティーヴン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカス、黒澤明、小林正樹などの名前を挙げた両監督。「自分たちが観たい映画を作っただけ」と切り出すと、「全てのエモーションが体験できて、最後にひねりがある。そしてしばらく考えさせられるような作品」と本作への自信をのぞかせた。(取材・文:壬生智裕)
映画『オオカミは嘘をつく』は11月22日よりヒューマントラスト有楽町ほかにて公開