映画史上最も辛辣な作家キャラを描いた映画とは?
ニューヨーク映画祭(N.Y.F.F 52)で新作『リッスン・アップ・フィリップ(原題) / Listen Up Phillip』が上映され、主演ジェイソン・シュワルツマン、アレックス・ロス・ペリー監督が語った。
【写真】ジェイソン・シュワルツマン『グランド・ブダペスト・ホテル』
同作は、出版を控えた辛辣(しんらつ)な作家フィリップ(ジェイソン)は、執筆活動に集中できず、恋人アシュリー(エリザベス・モス)との関係も煩わしくなっていたある日、敬愛する作家アイク(ジョナサン・プライス)の別荘で執筆活動を勧められ、静かな環境で執筆するが、徐々に不満を感じ始めるというドラマ。俳優経験もあるアレックス・ロス・ペリーがメガホンを取った。
主人公フィリップは、アレックス監督の分身なのか。「自分と同じくらいの年齢の主人公にすると、人々がそのキャラを監督の分身と解釈するのは簡単だ。確かに多少似ている部分もある。でも今作ではフィリップ、アシュリー、アイクの3人を通して、僕自身の持つ疑問点を投げかけていて、その中でもフィリップが一番疑問を抱いている設定というだけだ」と答え、さらにフィリップが気難しい設定なのは「主人公の振る舞いが、いかに他人に影響を与えるかを描きたかった。だから、そんな気難しい男が部屋を出ていった瞬間、その部屋で何が起きているかに僕は興味があったためそうなった」と明かした。
フィリップというキャラクターの構築過程についてジェイソンは「事前にアレックス監督と、フィリップが人前でどの程度出しゃばり、どの程度その出しゃばった状態が続くのかを話し合い、実験的な演技も行った。最終的には、フィリップは誰とでも直接的な会話をするところに落ち着いた」と答え、さらに「もしフィリップを酒に例えるならばウォッカやジンだろう。アルコールの濃度が高ければ、その危険性もわかる。一方フィリップ以外の人を例えるならば、シャンパンや赤ワインだ。味はおいしいが飲み過ぎた時に、その危険性はわからないため誤解する」と興味深い分析をした。
クローズアップシーンが多いことについてアレックス監督は「僕が影響を受けたウディ・アレンの映画『夫たち、妻たち』は、夫婦の親密さや揺らいだ関係を描いていて、そんな美的アプローチを盗むつもりはないが、あの映画のようにニューヨークで息が詰まりそうな感覚を描きたくて、それがクローズアップの多用となった」と語った。
映画は、繊細で辛辣な作家に振り回される家族と恋人がリアルに描かれている。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)