世界で注目されるドキュメンタリー作家の驚くべき撮影手法とは?
アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされるなど、世界から注目されたジョシュア・オッペンハイマー監督の、ドキュメンタリーの常識をくつがえしたともいわれる衝撃的な撮影手法に迫った。
1960年代のインドネシアで行われた大量虐殺を加害者側の視点から描いたドキュメンタリー映画『アクト・オブ・キリング』。元々、別のドキュメンタリーを撮影する予定でインドネシアを訪れたオッペンハイマー監督は、そこでいまだに虐殺に加担した人間たちが市民たちを恐怖で支配している現実を知り、本作の製作を決意。当初は被害者側に取材を試みるもインドネシア当局から妨害され、加害者にカメラを向けることとなる。
そこで監督ががくぜんとしたのが、100万人規模の虐殺をその手で行った男たちが今も英雄としてたたえられ、凄惨(せいさん)な虐殺の思い出を楽しげに、誇らしげに語ったことだった。オッペンハイマー監督はそこに着眼し、「加害者が殺人の再現をする」という前代未聞の手法で加害者たちの心の闇をあぶり出した。
劇中でオッペンハイマー監督がクローズアップした人物が、事件当時1,000人近くを虐殺したアンワルという人物。初めは喜々として殺人行為を正当化しながら話していた彼が、作品を作り上げていくうちに驚くべき変化を見せるようになる。
被害者側への取材を行う予定が軍に阻止されるという状況を逆手にとり、加害者の「闇」を見せつけた本作は政治的にも大きな意味合いをもたらした。アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされるなど世界的な反響があったためか、ついにインドネシア政府は虐殺の事実を認めた。
今年開催されたベネチア国際映画祭では、オッペンハイマー監督の最新作『ザ・ルック・オブ・サイレンス(原題) / The Look of Silence』が上映され、長いスタンディングオベーションが起きた。撮影中に出会った、いまだ報復におびえながら生きる被害者家族たちと対峙(たいじ)したことで「大きな力を前に諦めてしまうことの恐ろしさ」を感じたというオッペンハイマー監督は、「映画」を武器に今後も政府と闘っていくつもりだという。(編集部・森田真帆)
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