『ムサン日記』の社会派監督、うつ病の友人が自殺した実体験を告白
第15回東京フィルメックスのコンペティション部門で『生きる』が上映され、監督で主演のパク・ジョンボムがティーチインに登壇した。本作は、2010年の長編監督デビュー作『ムサン日記~白い犬』でロッテルダム国際映画祭や釜山国際映画祭など映画祭で数々の賞を受賞し、第12回東京フィルメックスで審査員特別賞に輝いたパク監督の2作目となる。
山村の味噌工場で働く労働者たちの過酷な現実を描いた新作『生きる』は、「弟のような存在だった友人が自殺し、生きるとは何なのかということを改めて考えさせられたことがきっかけでした。主人公の姉がうつ病を患っている設定についても、その友人を投影しました」と監督の実体験がもとになっていることを明かした。また、主人公の友人で知的障害を持つキーパーソンについては「IQ100前後の純粋な心を持つ人として設定しました。彼には計算高い部分もあって、だからこそ主人公が悪い方向に進もうとするとき巧みに軌道修正していく、そんな役割を持っています」と話す。
177分という長尺については観客から「実は一部寝てしまった」という手厳しい意見も飛び出した。すると監督は「実は、脚本の段階では4時間くらいの映画になる予定でした。編集して3時間内に収めたのですが、実際にこの映画を苦しそうに観ている観客の息遣いを感じました(笑)。でも『生きる』ということは非常に退屈なことでもありますよね」と冗談めかして答えつつ、「見たくないものも見なければならないし、それが『生きる』ことだと体感していただけるのではないか」と真摯(しんし)に語った。
パク監督は前作に続いて本作でも監督と主演を務めているが、その理由は「わたしは北野武の映画を観て映画監督になりたいと思ったのです。監督と主演を兼任しているのも彼の影響によるもの」と話し、北野武監督から強い影響を受けていることを明かした。(取材・文:芳井塔子)
第15回東京フィルメックスは、有楽町朝日ホールをメイン会場に11月30日まで開催中