『髪結いの亭主』を今撮っていたら別のラストに!?パトリス・ルコント、官能描写を大いに語る
『髪結いの亭主』や『仕立て屋の恋』などで知られるフランスの名匠パトリス・ルコント監督が来日し、新作『暮れ逢い』について語った。
前作『スーサイド・ショップ』は初のアニメ作品であり、過去作にはコメディーも多いが、「恋愛映画を撮っているとき、最も居心地の良さを感じるんだ」と本人が言うように、恋愛映画はルコント監督にとって、また日本のファンにとっても思い入れの強いジャンルだろう。
新作で描かれるのは、20世紀初頭のドイツを舞台にした、聡明な青年と人妻、その夫で青年の雇い主である男の三角関係。ひそかに思いを寄せ合う青年と人妻の関係についてルコント監督は、「恋をしているときは幸せな感情になるけれど、同時にこれは秘めた恋であるため、感情を抑えなければならない。そうした二つの矛盾した感情がせめぎ合っている状態なんだ」と、この二人の恋愛が一筋縄ではいかないことを強調した。
雇い主の秘書となった青年と人妻は一つ屋根の下に住みながら、しかしプラトニックな関係であるからこそ、まなざしやきぬ擦れといった瞬間の一つ一つに敏感になっているという。『イヴォンヌの香り』などで見られる官能的な描写もルコント作品の魅力の一つだが、 本作でも人妻の肢体を追うカメラの動きは執念深く、大胆だ。「青年の視線は僕の視線でもある。欲望というものはまなざしを通して発散されるものだと思う。僕自身の欲望がカメラを通して発散されているんだろうね」と、ルコント監督は官能描写についての持論を明かした。
『暮れ逢い』のラストの展開はこれまでのルコント監督の作品とは趣きが異なる。原作の小説とも違うそうだが、年齢による心境の変化からくるものなのかという問いには、「今、『髪結いの亭主』を撮っていたら、ヒロインを川に放り込まなかったと思うよ(笑)」と意外な回答! 本作は、「恋愛映画の名匠」ルコント監督が、感情と官能を表現することを極めた一作となっている。(取材・文:岩永めぐみ)
映画『暮れ逢い』は12月20日よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開