誰も戦場という狂気から逃れられない…戦場カメラマン渡部陽一が明かす惨状
戦場カメラマンの渡部陽一が13日、都内で行われた映画『アメリカン・スナイパー』トークショーイベントに出席し、紛争地の最前線での出来事について語った。
アメリカ軍で最も強い狙撃手と呼ばれたクリス・カイルの自叙伝をクリント・イーストウッド監督が実写化した本作。この日のゲストは、本作の舞台となるイラクへの取材を通じ、現地のリアルな状況を体感している渡部。「僕は戦場カメラマンとして、世界中の紛争地をまわってきました。紛争では民族や宗教、領土などさまざまな理由で起きていますが、どの戦場でも共通していたことは、犠牲者はいつでも子供たちであるということ」と力強く切り出した。
さらに「紛争地は情報が統制されてしまっていたり、国境が閉ざされてしまっているので、その中で何が起こっているのかわからなくなっていきます」と付け加えた渡部は、「そこで泣いている子供たちの声を、一人でも世界の方に届けることができたとき、日本であっても、どの国であっても他の国とつながることができると感じています。カメラマンとして、丁寧に世界の声を記録に残していきたいと思います」とコメント。
2003年に勃発したイラク戦争のときに、アメリカ軍の従軍カメラマンとして現地に赴いたこともある渡部は、「キャンプ地で驚いたのは、同じ前線に兵士として入っていたのが19歳や20歳くらいの今どきの若者だったということ。話をしてみると、今までイスラム教徒と話をしたこともないし、(イラクの)首都がバグダッドであるということも知らなかった」と振り返る。
そんな彼らが前線からキャンプ地に戻ると、家族や恋人などに泣きながら電話をしているのだという。「戦争の犠牲者は子供たちだけでなくて、彼らもそう。心をコントロールできなくなっているんです。彼らは防弾着を脱ぐと今どきの若者たち。そんな戦場のギャップに、カメラマンとして大きく胸を揺さぶられました」と明かした。
さらに本作の主人公のクリス・カイルが、4度にわたりイラクに遠征したことについて「一度戦場に足を踏み入れた者は必ず戦場に戻っていきます。これは中毒のようなものだと言っていました。悲しい現実だと思います」と切り出した渡部は、「誰もが戦場という狂気からは逃れられないということを作品から感じました」と語るなど思うところがあったようだ。(取材・文:壬生智裕)
映画『アメリカン・スナイパー』は2月21日より新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国公開